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65歳以上の定年退職で必要な年金・保険・失業手当の手続きを解説

谷口芳子 【社会保険労務士】

65歳で定年退職をすると、年金や保険などの手続きに悩む人も多いもの。今回は65歳定年の際の退職金の受給方法、年金受給や繰り下げ方法、健康保険や雇用保険について社労士が解説します。

目次

65歳で定年を迎えるにあたって、準備しなければいけないことはたくさんあります。
退職金を一時金で受け取るのか、それとも年金型で受け取るのか、年金を受給するのか、繰り下げをするのか、配偶者の年金手続きはどうするのか、健康保険の切り替えはどれにすればいいのか、また再就職に向けて失業手当などを受給するにはどうしたらいいのか、悩むことも多いでしょう。

今回は65歳の定年退職前後に、どのような手続きをすれば良いかをご紹介します。

65歳で定年退職する際の手続きと流れ


退職の手続きと流れを順番に紹介します。

  1. 退職金規定の確認と退職所得の受給に関する申告書の作成
  2. 健康保険の切り替え検討
  3. 各種書類の依頼(退職証明書、雇用保険被保険者証や年金手帳の返却)
  4. 財形貯蓄、企業型確定拠出年金の手続き
  5. 最終出勤日や退職後に保険証や備品等を返却
  6. 健康保険証の切り替え手続き
  7. 年金の受給・繰り下げ・切り替え等の手続き
  8. 雇用保険(失業給付)の手続き
  9. 再就職の検討


このような順番で進めるとスムーズです。それでは、順を追って手順を紹介します。

1.退職金の受給申告書作成と勤務先への提出

退職金制度がある企業に勤務している場合は、退職金をどのように受給するかを退職前に検討します。
退職金の受け取り方には、一時金型と年金型の二種類があります。

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一時金と年金型のどちらもメリットとデメリットがありますので、どちらの受け取り方がいいのか判断がつかない場合は、税理士やファイナンシャルプランナーなどに相談してみるといいでしょう。有料になりますが、専門家の視点からアドバイスが受けられます。
また、「国税局電話相談センター」や「税務相談チャットボット」での相談や、よくある税の質問集「タックスアンサー」などを参考にしてみてください。
税についての相談窓口|国税庁

一時金として受給する場合は、退職所得の控除に必要な「退職所得の受給に関する申告書(兼 退職所得申告書)」を作成し、勤務先の該当部署に提出します。この申告書は、勤務先に相談すれば手配してくれることもありますし、下記の国税庁のホームページからダウンロードすることも可能です。
申告書類の書き方がわからない場合は、勤務先の担当部署か、税務署などに相談しましょう。

[手続名]退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)|国税庁

会社によっては、退職金を年金として受給する方法を選べることもあります。この場合の課税は、公的年金等の雑所得の扱いになります。税金を毎年払うことになるため、退職後にまとめて確定申告をする必要はありません。
公的年金等の雑所得にも所得控除があり、控除額は年齢と所得額によって決まります。

2.健康保険の切り替えを検討する

定年退職後には、在職時の保険証は無効になりますので、退職後にどの健康保険に加入するかを検討しましょう。

新しく加入する健康保険の種類には下記の4種類の候補があります。

<定年退職後の健康保険>

  • 会社の健康保険を任意継続する
  • 国民健康保険に加入する
  • 家族の健康保険に被扶養者として加入する
  • 特例退職被保険者になる


それでは、それぞれの健康保険の特徴と加入の条件をご説明しますので、参考にしてください。

会社の健康保険を任意継続する

会社の健康保険に、退職後も最長で2年間加入できるのが任意継続の制度です。
退職前に被保険者期間が継続して2か月以上あることが加入の条件となります。
任意継続の申出書は、退職日翌日から20日以内に提出する必要がありますので、ご注意ください。

在職時は保険料の半分を会社が負担してくれますが、任意継続被保険者になると会社の負担がなくなるため、保険料は二倍になってしまいます。ですので、保険料を国民健康保険と比較検討してもいいでしょう。
国民健康保険の保険料は前年度の所得から決まります。保険料の概算額は、市区町村の窓口などで確認することができます。

国民健康保険に加入する

定年退職後の健康保険の切り替え先として、もっともスタンダードなのが国民健康保険です。国民健康保険に切り替える場合は、居住地域の市区町村役場や支所などの国民健康保険窓口で申請手続きをしましょう。
手続きは退職日の翌日から14日以内に行うのが原則ですが、任意継続と違い、仮に期日を過ぎても加入できないということはありません。期日を過ぎた場合は、退職日翌日以降の保険料を支払います。

家族の健康保険に被扶養者として加入する

働いている配偶者やお子様など、3等親以内の親族(被保険者)が加入する健康保険に、被扶養者として入ることも可能です。
扶養家族になるには年収130万円未満が一般的な要件ですが、60歳以上の場合は、年金収入も含めて180万円未満が要件となり、さらに扶養する家族と同居か別居かによっても要件が分かれます。
同居の場合は、家族の収入の2分の1未満であるか、または家族の年間収入を上回らないこと、別居の場合は扶養する家族からの仕送り額より少ないことが要件となります。

定年退職後に再就職をするとしても、パートタイムやアルバイトなどで働き、180万円を超えない働き方をするのであれば、ご家族に相談してみてください。
退職日以降、保険証を早めに発行してもらえるように、ご家族には前もって勤務先に連絡してもらいましょう。

特例退職被保険者になる

特例退職被保険者制度とは、大企業の健康保険組合が退職者向けに提供している健康保険のことです。
特例退職被保険者になるには、下記の3つの条件をすべて満たしている必要があります。

  1. 厚生年金などの公的年金(国民年金を除く)の老齢または退職を支給事由とする年金を受けている人
  2. 健康保険組合の被保険者期間が20年以上あった人、あるいは40歳以降10年〜15年以上(健康保険組合によって異なる)あった人
  3. 後期高齢者医療制度(75歳以上、一定の障害があると認定された65歳以上)に該当しない人


手続きについては、健康保険組合ごとに異なるため、それぞれの窓口に確認してみてください。

なお、新しい保険証がまだ手元にないときに病院やクリニックなどで受診した場合は、一時的に自費診療になりますので、いつもの受診料より高額になります。
受診した医療機関へ新しい保険証を持参すれば、遡って健康保険が適用されますが、月をまたぐ場合などは、いったん全額を立て替えて、療養費支給申請書を提出します(立替金の償還払い)。
療養費支給申請には、医療機関の領収書と診療明細書が必要になりますので、必ず保管しておいてください。

再就職をしたときは、保険証が届くまでのつなぎとして「健康保険被保険者資格証明書」が利用できます。すぐに保険証を使いたい場合は、「健康保険被保険者資格証明書」の発行を再就職先に依頼しましょう。

社会保険に関する記事はこちらもご参考ください。
今さら聞けない!介護保険制度とは?仕組みや保険料を徹底解説!

3.定年退職後に必要な書類作成と年金手帳返却の依頼(退職金関連の書類を作成)

定年退職後に必要な書類作成と年金手帳返却の依頼(退職金関連の書類を作成)
定年退職するにあたり、必要となる書類の作成を、職場の該当部署に依頼します。
わざわざ依頼をしなくても退職にかかわる重要な書類は用意してくれる企業がほとんどですが、健康保険をどのように切り替えるかなどを事前に伝えれば、必須書類だけでなく、関連書類や案内書などを手配してくれることもありますので、退職関連の書類については早めに相談してみましょう。

<会社側に作成依頼をする書類>

  • 離職票
  • 退職証明書
  • 雇用保険被保険者証
  • 健康保険被保険者資格喪失証明書
  • 年金手帳、もしくは基礎年金番号通知書の返却


また、自身で作成する書類もありますので、早めに手配しておいてください。

<自身で作成する書類>

  • 退職所得の受給に関する申告書(一時金で受け取る場合)
  • 退職届(嘱託社員等の採用を断った場合)


退職金を一時金で受け取る場合は、「退職所得の受給に関する申告書」の作成も自身で行います。また、65歳の定年以降も嘱託勤務できると案内されたにも関わらず、断って退職をする場合は、自己都合による退職になりますので、退職届の作成が必要なこともあります。
嘱託社員を断った人は、会社に退職届が必要かを確認してください。

離職票

離職票は、再就職を目指す人が雇用保険の失業給付を受給するために必要な書類です。

雇用保険被保険者証

雇用保険被保険者証で自分の被保険者番号がわかります。この番号はずっと変わらず、転職しても同じ番号を使い続けます。
再就職した時や、失業給付の手続きで必要になる重要な書類ですが、在職中は会社が保管していて、退職する際に初めて本人に手渡されることがあります。

退職証明書

退職証明書の提出を、転職先から求められることがあります。
次のステップに進むための重要な書類ですので、必ず受領するようにしてください。

健康保険資格喪失証明書

健康保険資格喪失証明書は、退職後に加入する健康保険証の発行に必要な書類です。
とくに任意継続の申請書には、退職後20日以内の提出期限がありますので、必ず期限に間に合うよう、書類を会社に手配してもらってください。

年金手帳(2022年4月以降に再発行した場合は基礎年金番号通知書)

年金手帳の代わりとなる基礎年金番号通知書はカード形式
年金手帳を自分で保管をせずに、会社に預けている場合があります。定年退職後の年金受給や切り替えの手続きをするために必要なものですので、会社に保管されている場合は、退職時に必ず返却を依頼してください。

なお、年金手帳は2022年4月に廃止され、新たに「基礎年金番号通知書」として生まれ変わりました。年金手帳を紛失すると、基礎年金番号通知書が発行されることになります。
年金の受給や切り替え時には、年金手帳がある人は年金手帳を、年金手帳を紛失した人は基礎年金番号通知書を発行して手続きを行ってください。

年金手帳の廃止と、基礎年金番号通知書の取り扱い方については、下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
基礎年金番号通知書とは?今ある年金手帳はどうすればいいかを社労士が解説

4.企業型確定拠出年金、財形貯蓄、企業内融資などの手続き

企業型確定拠出年金、財形貯蓄、企業内融資などの手続き

企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo)の受給開始年齢の上限は75歳です。
ご自身のライフプランに合わせて、受給開始の年齢と、年金か一時金か、受け取り方を選択しましょう。

財形貯蓄の解約や、企業内融資、提携ローンを利用している人は退職までに完済することが重要です。
また社員証などと兼ねて作成した個人のクレジットカードは、今後必要がなければ解約しておきましょう。

iDeCo、NISAに関連する記事
つみたてNISAとiDeCoの違いとは?2022年のiDeCo制度改正も解説します

5.勤務中に利用した物品の返却

最終出勤日か退職日に、社員として使用していたものをすべて返却します。

  • 名刺(顧客のものも含む)
  • 社員証・社章・入館証など
  • 通勤定期券(カード)
  • 保険証
  • その他の書類・貸与品(制服など)


名刺は自分自身のものだけでなく、顧客の名刺もすべて返却します。
帰宅時に使用したSuicaカードなどの通勤定期券は、後日郵送で返却を。モバイルSuicaなどの定期券は、最終出勤日の当日中に解約し、払い戻し金額を会社に申請してください。
制服はクリーニングに出してから、そのほかの貸与品もきれいな状態で返却しましょう。

6.健康保険の切り替え手続きを期日内に行う

「2.健康保険の切り替えを検討する」でもお伝えしたように、退職後に加入する健康保険を選択し、会社に発行してもらった「健康保険資格喪失証明書」をもとに申請手続きを行います。
いずれの申請にも期限がありますので、速やかに行ってください。

7.65歳以上の定年退職時の年金手続きは4種類

65歳の人の定年退職時には、下記の4つの年金に関する手続き方法が考えられます。

  1. 再就職等のため年金受給を繰り下げる(受給開始を遅らせる)
  2. 受給資格を得るため任意加入する
  3. 年金の受給を開始する
  4. 60歳未満の配偶者の場合、配偶者の年金を国民年金に切り替える


ケースごとに、何をどういう手順でするべきか、解説していきます。

再就職などで働いて年金受給を繰り下げる場合

老齢年金は65歳で受け取らずに、66歳から75歳までの間で繰り下げて受け取ることができます。
繰り下げた期間によって年金額は増額されますので、老後の経済状況の安定を考え、働けるうちは受け取らない、と判断することもできます。また、在職老齢年金を減額されないように、受給を先に延ばす人もいます。

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なお、受給される期間を先延ばしにする場合も、「繰下げ請求」の手続きが必要です。
年金請求や繰下げ請求をしないまま5年が過ぎてしまうと、年金は永久に受け取れなくなってしまうからです。

居住地域を管轄する年金事務所か、街角の年金相談センター、あるいは「ねんきんダイヤル」などで相談のうえ、繰下げ請求書を作成しましょう。
手続きを行った時点で繰下げ増額率が決まってしまいますので、受給開始時期について、じっくり相談してみましょう。

再就職で働いて受給資格期間を満たす場合

厚生年金は、会社に勤めていても70歳で加入者ではなくなります。
ただし、70歳以上で老齢の年金を受けられる加入期間がなく、会社に勤めている人の場合は、受給資格期間を満たすまで「高齢任意加入被保険者」として任意加入することができます。

また国民年金も、1965(昭和40)年1月1日以前に生まれた人で、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていない人の場合は、70歳になるまでの間、受給資格期間を満たすまで特例として任意加入することができます。

年金の受給を開始する場合

年金の受給権が発生する65歳到達日(誕生日前日)の3か月前に日本年金機構から「年金請求書」が発送されますので、受給権発生日まで大事に保管しておきます。
受給権発生日になったら、請求書に必要事項を記入のうえ、必要な書類を揃えて、居住地域を管轄する年金事務所で手続きを行います。
必要な書類はご本人の状況によって変わりますのので、年金機構からの案内書などで確認しましょう。

<年金請求書に添付する書類の例>

  • 年金手帳(基礎年金番号以外の年金手帳がある場合)
  • 2022年4月以降に年金手帳を紛失し再発行した人は「基礎年金番号通知書」
  • 雇用保険被保険者証
  • 戸籍謄本・住民票など生年月日がわかる書類(受給権発生日以降に発行されたもの、かつ提出日以前6か月以内に交付されたもの)
  • 所得証明書(配偶者の厚生年金の加入期間が20年以上の場合に添付。マイナンバーで省略可)
  • 受取先金融機関の通帳またはキャッシュカードなど(コピー可)


企業年金に加入している場合は、勤務先に手続き方法を確認してください。

扶養する配偶者が60歳未満の場合

配偶者が60歳未満で扶養家族となっている場合は、居住地域の市区町村役場で配偶者の国民年金の種別変更手続きを行います。
自身の退職により、配偶者が第3号被保険者(第2号被保険者に扶養されている配偶者)から、第1号被保険者に変わるためです。

第1号被保険者などの被保険者の定義については、下記の記事で解説していますので、参考にしてください。
【図解あり】離婚時に年金分割をするとどうなる?年金分割制度と手続き方法

注意!請求・繰り下げ請求をしないで5年が過ぎると年金は永久に受給できなくなります

年金は自分で請求の手続きをしないと、受け取れません。年金の受給権がある状態で、請求や繰り下げ(受給開始を遅らせる)の手続きをしないまま5年を過ぎてしまうと、年金は永久に受け取れなくなってしまいます。
年金を受給せずに「繰下げ」を検討している場合でも、受給権発生日になったら、繰下げ請求の手続きをするため、年金事務所や、ねんきんダイヤルなどで手続き方法を相談してください。

8.雇用保険(失業給付)の手続き

雇用保険受給資格者証と失業認定報告書
65歳以上で就職し、週に20時間以上働く人は、高年齢被保険者として雇用保険に加入することになりますが、加入の手続きは会社が行います。

失業している人は、失業給付の支給対象になる場合があります。
手続きについては、退職後に会社から郵送される案内に記載されていますが、居住地域を管轄するハローワークで行います。

ハローワークに、離職票、マイナンバーカード、証明写真(マイナンバー等で省略可)、本人名義の預金通帳またはキャッシュカードなどを持参します。
そこで「雇用保険説明会」の日程が案内されますので、参加してください。求職活動をして失業の認定が得られたら、一時金として高年齢求職者給付金が支給されます。この給付金は、老齢年金と合わせて受給することができます。

失業手当については、下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
失業手当を受給するには?給付のポイントを解説

9.定年退職手続きが終わったら「再就職」を検討してみよう

65歳の定年退職を期に、新たな環境に身を置く人も多いことでしょう。
定年退職をしたあとも、働く気力と体力がある人は、再就職を検討することをおすすめします。

この記事の監修者

谷口芳子 【社会保険労務士】

シニア社労士事務所所長。NPO法人や税理士法人を経て現職。社会保険・雇用保険の各種届出、年末調整、労務相談、公正証書作成などの業務を担当。行政書士資格保有。

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