60歳の定年退職前後にするべき保険・年金・失業保険・退職金の手続きを解説
60歳で定年退職をする場合の、健康保険や年金、失業保険、退職金などの手続きや流れを解説します。
- 目次
- 定年退職時の手続き・流れ
- 定年退職時の健康保険の選択と手続き・流れ
- 1.任意継続被保険者制度へ切り替える
- 2.国民健康保険へ切り替える
- 3.配偶者や子供など家族の健康保険に被扶養者として加入する
- 4.特例退職被保険者になる(大企業の特定健康保険組合)
- 定年退職時に勤務先へ返還するもの1点
- 勤務先に返還するもの:健康保険証
- 定年退職時に勤務先から必ず受け取るもの5点
- 勤務先から受け取るもの1:離職票
- 勤務先から受け取るもの2:雇用保険被保険者証
- 勤務先から受け取るもの3:健康保険資格喪失証明書
- 勤務先から受け取るもの4:源泉徴収票
- 勤務先から受け取るもの5:年金手帳(基礎年金番号通知書)
- 定年退職後の60歳未満の被扶養配偶者は要注意
- 定年退職後の失業手当
- 退職金の受け取りは一時金型と年金型のどちらが得?
- 定年退職時の諸手続きの内容をしっかりと理解しておく
定年退職時の手続き・流れ
定年退職する際には、健康保険、年金、雇用保険・失業手当、退職金などの処理に対応する必要があります。
それでは、順を追って解説していきます。
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定年退職時の健康保険の選択と手続き・流れ
定年退職時に必ず手続きしなければならないのが、健康保険の切り替えです。
健康保険の手続きをしておかなければ、病気になった時や、何らかの事故に遭い怪我を負った時に、健康保険の適用ができず、高い医療費を支払わなければなりません。
そのためには、忘れずに健康保険の切り替えをしておいてください。
会社を退職すると、勤務先で加入していた健康保険の「被保険者資格」がなくなりますので、下記の4つの中から選択する必要があります。
- 任意継続被保険者になる
- 国民健康保険に加入する
- 家族(配偶者や子供など)の被扶養者になる
- 特例退職被保険者になる(大企業の特定健康保険組合)
退職後に再就職を考えている人でも、次の職場に入社するまでに空白期間がある場合は、切り替えの手続きが必要です。
1.任意継続被保険者制度へ切り替える
「任意継続被保険者制度」とは、会社を退職したあとも在職中と同じ健康保険に加入できる制度です。
退職前の被保険者期間が2か月以上あることが条件で、退職後は最長2年間まで加入することができます。
在職中は保険料の半分を会社が負担してくれましたが、退職後は全額自己負担となり、今までの倍の健康保険料を支払うことになりますので、ご注意ください。
任意継続の加入手続きは、退職日翌日から20日以内に済ませる必要があり、それ以降は正当な理由がない限り受け付け不可となります。
在職中に人事労務の担当者などに確認して、期限内に手続きを進めるようにしてください。
申請に必要な書類は下記のとおりです。
- 任意継続被保険者資格取得申出書
- 被扶養者の収入を証明する書類など(不要の場合もあり)
- 退職日が確認できる書類
なお、初回の保険料を納める期日は保険者(健康保険事業の運営主体)から指定がありますが、2回目以降は毎月10日までに納めます。
正当な理由がなく期日までに保険料を納めないと、任意継続の資格を喪失してしまいますので注意してください。
保険料を半年分や1年分まとめて納める前納制度もありますので、活用しましょう。
2.国民健康保険へ切り替える
国民健康保険は、自治体が保険者となる健康保険です。
保険料は、前年所得をベースとして計算されますが、内容は市町村によって異なります。
国民健康保険は居住地の役所で加入手続きをする必要があります。
郵送やオンラインで受け付けている自治体もありますので、各市区町村の国民健康保険窓口に確認してください。
なお、加入手続きは退職日翌日から14日以内が原則ですが、万が一期日を過ぎても手続きは可能です。
ただし、保険料は退職日翌日まで逆算して支払う必要があります。
国民健康保険への加入手続きには、基本的に下記の書類が必要です。
- 市町村指定の届出書
- 健康保険資格喪失証明書
3.配偶者や子供など家族の健康保険に被扶養者として加入する
配偶者や子供が厚生年金などに加入している場合は、家族の健康保険に加入することができます。
60歳以上の人は、自分の年収が年金も入れて180万円未満で、被保険者(配偶者や子供などの3親等以内の親族)の年間収入の2分の1未満であるか、または被保険者の年間収入を上回らない場合は、配偶者や子供などの健康保険に加入することができます。
被保険者から仕送りを受けているなど「生計維持関係」にあることが証明できれば、離れて暮らす家族の健康保険でも加入することができます。
別居の場合は、年収180万円未満で、かつ家族の仕送り額よりも少ないことが要件となります。
被扶養者になると、保険料を負担することなく、現役時代と同様の給付が受けられるため、収入の条件を満たし、生計維持関係にある場合は、家族の健康保険に入ることをおすすめします。
手続き方法はそれぞれで異なりますので、家族の勤め先に確認してもらってください。
4.特例退職被保険者になる(大企業の特定健康保険組合)
特例退職被保険者制度とは、大企業の健康保険組合が退職者向けに提供している健康保険のことです。
特例退職被保険者になるには、下記の3つの条件をすべて満たしている必要があります。
- 老齢厚生年金などの公的年金を受けている人
- 特例健康保険組合の被保険者期間が20年以上あった人、あるいは40歳以降10年〜15年以上(健康保険組合によって異なる)あった人
- 後期高齢者医療制度(75歳以上、一定の障害があると認定された65歳以上)に該当しない人
特例退職被保険者の保険料は、地域によって国民健康保険のほうが安くなることもあるようです。それぞれの保険料や給付の内容を充分に比較検討して選ぶとよいでしょう。
手続きなどについては、特定健康保険組合ごとに異なるため、それぞれの窓口に確認してみてください。
定年退職時に勤務先へ返還するもの1点
退職時には、下記のものを勤務先に返還しておかなければなりません。
勤務先に返還するもの:健康保険証
健康保険証は退職日まで利用が可能ですが、退職後は直ちに返却しなくてはなりません。
退職日以降に返却を忘れて健康保険を使ってしまうと、そのあとに加入した健康保険との差額精算など、面倒な手続きが必要となる場合があります。
特に退職日前後は健康管理に注意しつつ、早急に保険切替を行うようにしてください。
定年退職時に勤務先から必ず受け取るもの5点
反対に退職時に受け取りが必要なものもあります。
勤務先から受け取るもの1:離職票
離職票は、失業手当を受給するために必要な書類です。
一般的には退職から2週間前後で会社から郵送されます。
勤務先から受け取るもの2:雇用保険被保険者証
通称「雇用保険証」と呼ばれている雇用保険被保険者証で、自分の雇用保険番号がわかるものです。
この番号は勤める会社が変わってもずっと同じものが使われています。
雇用保険証は、入社した時に発行されますが、紛失しないように会社が保管していることがあります。
再就職や転職する際、勤務先に雇用保険番号が引き継がれることになりますので、雇用保険証を返還してもらうようにしてください。
勤務先から受け取るもの3:健康保険資格喪失証明書
この証明書は、健康保険から国民健康保険に切り替えをする場合に必要な書類になりますので、再就職か否かを問わず、受け取りを忘れないように注意しましょう。
勤務先から受け取るもの4:源泉徴収票
源泉徴収票は12月の所得が確定した時に受け取りますが、年度途中の退職でも源泉徴収票が発行されます。
再就職後の会社に提出して年末調整をしたり、年内に仕事が決まらない時に自分で確定申告をする時に使います。
勤務先から受け取るもの5:年金手帳(基礎年金番号通知書)
年金手帳も会社が預かっているケースがあるので、忘れずに受け取るようにしましょう。
なお、2022年4月から年金手帳が廃止され、「基礎年金番号通知書」に切り替わることになりました。年金手帳を紛失して、新たに基礎年金番号通知書を発行する必要がある人は、ねんきんダイヤルに問い合わせるか、近くの年金事務所などで手続きを行ってください。
年金手帳の廃止と、基礎年金番号通知書の取り扱い方については、下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
基礎年金番号通知書とは?今ある年金手帳はどうすればいいかを社労士が解説
定年退職後の60歳未満の被扶養配偶者は要注意
日本に住んでいる20歳以上60歳未満で自営業や農業をしている人は、国民年金に加入して「第1号被保険者」となっています。
会社などに在職している人は、厚生年金に加入して「第2号被保険者」となっており、国民年金の保険料は給与から天引きをされる厚生年金保険料に含まれています。
また、厚生年金に加入している時(第2号被保険者)の被扶養配偶者は「第3号被保険者」となっています。
在職中は被扶養配偶者の保険料納付義務はありませんが、退職時点で配偶者が60歳未満のとき、配偶者は第3号被保険者から第1号被保険者となりますので、種別変更の手続きをして保険料を納める必要があります。
定年退職をすると厚生年金から外れますが、老齢年金の受給権があれば、国民年金の保険料を納める必要はありません。老齢年金は、保険料を納付した期間などが10年以上あれば受け取れます。
ただし、老齢基礎年金(国民年金)を満額受給するためには、保険料を40年(480月)納める必要があり、480月に満たないときは、減額した年金額となります。
老齢基礎年金を満額で受給したい場合は、480月を上限として65歳まで保険料を納めることができます。
定年退職後の失業手当
定年退職後に再就職を考えていて、再就職先がすぐに決まらない場合は、失業手当の申請ができます。定年退職でも一定の条件を満たしていれば、給付金を受け取れますので、ぜひ検討してみてください。
失業手当を受ける条件は、下記の条件を満たしている必要があります。
- 退職日以前の2年間に遡り、雇用保険の被保険者期間が12か月以上ある
- 就職しようとする積極的な意思がある
- いつでも就職できる能力がある
- 仕事を探しているが、現在職業についていない
- ハローワークで求職の申し込みを行っている
失業手当の手続き方法や金額については、下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
失業手当を受給するには?給付のポイントと高年齢求職者給付金についても解説
退職金の受け取りは一時金型と年金型のどちらが得?
退職金の受け取り方には、一時金型と年金型の2種類の受け取り方があります。
一時金は、1回でまとめて受け取る方法です。確定申告をする必要がありますが、勤務先で源泉徴収をしてもらえる場合もありますので、定年退職の前に必ず確認しておきましょう。
退職金を年金で受給する場合は、公的年金等の雑所得となり、健康保険料などにも影響します。
何歳まで働くか、貯金額がどれくらいあるか、年金をどれだけ受け取れるかなど、ライフプランによってどちらが得になるのか変わってきますので、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談のうえ、退職金の受け取り方を決めるとよいでしょう。
定年退職時の諸手続きの内容をしっかりと理解しておく
60歳で定年退職したときにやるべき保険や年金関連の手続きについて説明してきました。
超高齢化社会となった昨今では、60歳で定年を迎えても働き続けている人がたくさんいます。
企業側も雇用延長や再就職の間口を広げていますので、ますます60代以降の再就職の機会が増えていくことと思います。
定年後に再就職をするのであれば、シニア専門転職エージェントの利用を検討してみてください。
この記事の監修者
谷口芳子 【社会保険労務士】
NPO法人や税理士法人を経て現職。社会保険労務士として、社会保険・雇用保険の各種届出、年末調整、労務相談、公正証書作成などの業務を担当。行政書士資格保有。