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在籍出向|転籍出向とは?給与はどうなる?左遷・派遣との違いも!

上田優佳 【キャリアアドバイザー】

働く

在籍出向|転籍出向とは?
給与はどうなる?左遷・派遣との違いも!

「出向」という言葉にどのようなイメージをお持ちですか?自分自身に経験のない場合、ネガティブなイメージを抱く人も多いでしょう。 出向とは、出向元の企業との雇用関係を維持したまま出向先の企業で働くこと。出向を命じられる社員により理由は異なりますが、人材育成や経営戦略のために出向させる企業も多く、必ずしもネガティブな理由ばかりではありません。 この記事では、出向の種類や目的、異動や左遷などの似た制度との違いや給与や福利厚生の扱いなどを解説します。

目次

出向とは?

出向する人のイメージ

まずは、出向の意味や種類を確認していきましょう。

なお、出向には在籍出向と転籍出向がありますが、単に「出向」という場合は一般的に「在籍出向」を意味します。そのため、この記事でも「出向」は「在籍出向」として解説しています。

出向(在籍出向)とは出向元企業との雇用関係を維持したまま出向先企業で働くこと

出向とは、出向元企業との雇用関係を維持したまま出向先企業で働くこと。出向元企業の子会社やグループ会社へ出向するケースが多く、「企業間人事異動」と呼ばれることもあります。

出向社員は出向元企業の一員であることに変わりはありませんが、実際の勤務は出向先企業で行います。

勤務条件は雇用契約書に記載されている内容に従う必要がありますが、勤務時間や休日などは出向先企業の規則に準ずることが一般的。出向する社員は出向元企業と出向先企業の双方と労働契約を交わします

出向期間に関してのルールはありません。数ヶ月の場合もあれば、長期間出向するケースもありますが、一般的には6ヶ月から3年程度の場合が多いようです。出向期間が終了した社員は、元の企業に戻ることが前提になっています。

なお、雇用契約書に出向の可能性があることの記載がある場合、在籍出向に関して出向する社員の同意は必要ありません

※1:厚生労働省|在籍型出向支援

転籍出向とは出向元企業との雇用関係を解消して出向先企業で働くこと

転籍出向とは、出向元企業との雇用関係を解消して、出向先企業と雇用関係を締結し、出向先企業で働くことです。

出向する社員は出向元企業との雇用関係はなくなるため、基本的には元の会社に戻ることはなく、出向先企業の社員として働くことになります。

兼務出向とは出向元企業と出向先企業の両方で部分的に働くこと

兼務出向とは、出向元企業と出向先企業の両方で部分的に働くこと。出向元企業との雇用関係は維持したまま出向先企業との雇用関係を締結し、2つの企業で部分的に勤務します。

月火水木は出向先企業・金曜日は出向元企業で働く
1周目から3周目までは出向先企業・4周目は出向元企業で働く
  • 1週間のうち4日間は出向元企業、1日は出向先企業で勤務する
  • 月末の1週間のみ出向元企業、それ以外は出向先企業で勤務する など

部分的に別の企業で働くことから「部分出向」と呼ばれることもあります。

【異動・転勤・左遷・派遣】出向と似た制度との違い

【異動・転勤・左遷・派遣のイメージ

会社に所属していると、異動や転勤、左遷や派遣などの言葉を耳にする機会も多いでしょう。特に「異動」や「左遷」などは出向と似た意味があると思っている人も多いのではないでしょうか?

ここでは、出向と似た制度との違いをご紹介します。

異動の中に出向も含まれる

異動とは、一般的に会社内での配置転換全般を意味します。

転勤や左遷、昇格や降格など、現在と違う部署や職場に配置転換される幅広い人事の動きを異動と呼ぶため、異動というくくりの中に出向が含まれるととらえてください。

出向と転勤の違いは所属する企業が同一か否か

転勤とは勤務する場所が変更になる異動のことです。所属する会社は変わりませんが、勤務地が「東京支社から大阪支社」のように変更になることを意味します。

出向と転勤は勤務地が変わるという点は同じですが、「所属する企業が同一か別か」という点が異なります。

出向と左遷の違いはそれまでの地位より下がるか否か

左遷とは今よりも地位の低い部署や役職へ異動になることです。明らかに仕事量が少ない部署への異動や能力に見合わない部署への異動も、左遷と考えられます。

出向と左遷の大きな違いは、「それまでの地位より下がるか否か」という点です。左遷の場合はそれまでの地位より下がることが一般的ですが、出向の場合は地位が下がるとは限りません。

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出向と派遣の違いは雇用主や勤務期間

派遣とは派遣会社と労働者が雇用関係を締結し、派遣会社が企業に労働者を派遣する形態のことです。派遣社員の雇用主は派遣会社になりますが、業務の指揮命令は派遣先企業が行います。

出向と派遣の違いは、雇用主や勤務期間です。派遣社員の雇用主は実際に勤務する派遣先企業ではなく派遣会社になりますが、出向の場合は出向元企業と合わせて実際に勤務する出向先企業とも雇用関係を締結します。

また、一般的な派遣で働く場合は同じ企業で長期間働けませんが、出向の場合は期間の制限はありません。

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出向した場合の給与・社会保険・福利厚生はどうなる?

出向した場合の給与・社会保険・福利厚生はどうなる?

出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を締結する出向。出向社員の給与や社会保険、福利厚生はどちらの企業の内容が適用されるのでしょうか?

給与の支払主は出向元・出向先の話し合いで決定する

出向時の給与の支払主に関する明確なルールは定められていないため、出向元と出向先の話し合いで決定することが一般的です。

  • 出向先企業が社員に直接支給する
  • 出向先企業が出向元企業に賃金相当額を支払い、出向元企業が社員に支給する

なお、給与の額に関しては出向する際に締結する「出向契約書」に明記されるため、出向前に確認できます。

残業代・賞与は原則的には出向元の規定を適用する

残業代や賞与に関しては、出向元の規定を適用することが一般的。出向元の規定を適用する場合、出向先企業は出向元企業の規定で日々の勤務管理をすることになります。

賞与に関する規定も同様です。

昇給規定は出向元・出向先の話し合いで決定する

昇給規定に関しては、出向元と出向先の話し合いで決定することが一般的です。原則的には「出向契約書」に記載されるため、あらかじめ確認しておくことが大切です。

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退職金規定は原則的には出向元の規定を適用する

退職金規定に関しては、出向元の規定を適用することが一般的です。退職金を決める際の勤続年数には出向期間も含まれます。

退職金の相場とは?勤続10年・30年|大企業と中小企業の違いはどれくらい?

社会保険は原則的に給与の支払いをしている企業が負担する

社会保険は、給与の支払いをしている企業が負担することが一般的です。

給与が出向元と出向先の両方から支給されている場合は、給与の金額に応じた社会保険料を双方の企業が負担します。

福利厚生は出向元・出向先の話し合いで決定する

福利厚生に関しては、出向元と出向先の話し合いで決定することが一般的です。

出向に関する福利厚生に関しても明確なルールは定められていないため、原則的には出向契約書に記載されます。出向元と出向先の両方の福利厚生が適用されるケースもあります。

企業が社員を出向させる目的は?

悩むサラリーマン

なぜ企業は社員を出向させるのでしょうか?企業が社員を出向させるのには明確な目的があることが多いです。

社員を成長させること

1つ目の目的は、社員を成長させることです。

出向した社員は自社以外の業務を行うことで、新しい知識やスキルの取得が期待できます。取得したスキルを自社に持ち帰り共有することで、自社の成長も期待しています。

会社によって働き方や習慣も異なるため、新しい視点で物事を見られるようになる人も多く、広い意味での人材育成を目的として社員を出向させる企業は多いです。

人材育成を目的とした出向の場合は、「若手社員を関連会社へ出向させる」ようなケースが多いでしょう。

経営戦略のため

2つ目の目的は、経営戦略のためです。

出向先企業の業務改善や業績の向上、新規事業の立ち上げや人材育成を行うために自社の社員を出向させるケースもあります。

経営戦略のために出向を行う場合は、経験豊富な中堅〜ベテラン社員を出向させるケースが多いです。

企業間の良好な関係構築

3つ目の目的は、企業間で良好な関係を構築することです。

社員を出向させることで企業間のつながりが深くなることが期待できます。優秀な社員を出向させて業績を挙げれば、企業間の信頼が深くなるでしょう。出向社員が自社に戻った後も、出向先で築いた人脈がプラスに働くこともあるはずです。

雇用調整

4つ目の目的は、雇用調整のためです。

「業績が悪化したため自社の人員を減らしたい」など、雇用調整が必要になったときに出向を行う企業もあります。

この場合、社員を解雇することなく自社の経営を立て直す手段としての出向になるため、自社との雇用関係を解消する「転籍出向」になるケースが多いです。

出向のメリットデメリット

メリット・デメリットの図

ここまでの内容を踏まえて、出向のメリット・デメリットを確認してみましょう。

出向のメリット・デメリット

メリット

デメリット

出向元

  • 自社で得られない
    スキルの取得
  • 社員の能力が上がる
    ことによる会社全体の
    組織力強化
  • 一次的な雇用調整に
    よる人件費の削減
  • 出向先企業との関係が
    深まる
  • 業績の悪化や業務に
    支障がでる可能性がある

出向先

  • 自社で得られない
    スキルの取得
  • 社内が活性化される
  • 出向先企業との関係が
    深まる
  • 人件費や教育コストが
    かかる
  • 即戦力になる人材が
    来るとは限らない

出向社員

  • 自社ではできない
    経験ができる
  • 元企業に戻ったときに
    仕事の幅が広がる
  • 一から仕事を覚える
    必要がある
  • 新たに人間関係を
    構築する必要がある

上記のように、出向元・出向先・出向社員それぞれにメリット・デメリットがあります。

出向に選ばれやすい人の特徴とは?

特徴のイメージ

企業が出向させる目的は複数あり、目的によって出向させる社員の特徴は異なります。ここでは、年代別の出向に選ばれやすい人の特徴をご紹介します。

【20代】若手社員の場合

20代くらいの若手社員の場合、以下のような社員が選ばれる傾向にあります。

出向に選ばれる若手社員の特徴
  • 成長の可能性がある
  • 伸びしろが大きい
  • 潜在能力が高い
  • チャレンジ精神がある
  • 何事にも積極的
  • キャリアアップ意識が強い

若手社員の場合は、自社に戻ったときに自社を牽引してくれる成長性を秘めている社員が選ばれやすい傾向にあります。

【30〜40代】中堅社員の場合

30〜40代の中堅社員の場合、以下のような社員が選ばれる傾向にあります。

出向に選ばれる中堅社員の特徴
  • 主体性がある
  • 責任感が強い
  • 管理能力がある
  • コミュニケーション能力が高い
  • リーダーシップがある
  • 想像力や発想力がある
  • 自社の現状をよく把握している

中堅社員の場合は、出向先企業で貢献でき、2つの企業を良好にする関係を構築できる能力のある社員が選ばれやすい傾向にあります。

【50代〜】ベテラン社員の場合

50代以降のベテラン社員の場合、以下のような社員が選ばれる傾向にあります。

出向に選ばれるベテラン社員の特徴
  • マネジメント能力がある
  • さまざまな業務の知見が深い
  • 協調性がある
  • リーダーシップがある
  • 人徳がある

ベテラン社員の場合は、出向先企業の業績向上や新規事業立ち上げのために貢献できるような、豊富な経験のある社員が選ばれやすい傾向にあります。

ただし、雇用調整のための出向の場合、やる気や協調性に欠ける社員が選ばれる可能性もあるでしょう。

在籍出向を命じられたら基本的には拒否できない

拒否する人のイメージ

「出向を命じられたけれど今の会社で働きたい」、そんなときは出向命令を拒否できるのでしょうか?

転籍出向の場合は該当社員の同意が必要なため、拒否することは可能です。しかし、在籍出向の場合は以下のケースを除いて拒否することはできません

出向命令を無視した場合、懲戒処分の対象になる可能性もあるため注意しましょう。

出向を拒否できる主なケース

出向を拒否できるのは以下に該当するケースです。

出向を拒否できるケース
  1. 正当な必要性がない場合
  2. 不当な動機で出向命令がだされた場合
  3. 雇用契約書に出向の可能性があることが明記されていない場合
  4. 出向により従業員が大きな不利益を被る場合

労働契約法でも以下のように定められています。

第十四条使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

E-gov労働契約法 https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128?hit_toc=Mp-Ch_3-At_16

詳細を確認してみましょう。

正当な必要性がない場合

1つ目は、正当な必要性がない場合です。

社員や企業の成長につながらないような出向や、ローテーションのように慣例として出向命令がだされる場合など、正当な必要性がない場合は、企業が権利を濫用したとして拒否できる場合があります。

不当な動機で出向命令がだされた場合

2つ目は、不当な動機で出向命令がだされた場合です。

上司の個人的な感情や、社員の特定の行動に対する報復などの理由から出向命令がだされた場合は、企業が権利を濫用したとして拒否できる場合があります。

雇用契約書に出向の可能性があることが明記されていない場合

3つ目は、雇用契約書に出向の可能性があることが明記されていない場合です。

入社する際に締結した雇用契約書に出向の可能性があることが明記されている場合、社員は在籍出向の命令に従わなければなりません。しかし、記載がない場合は企業は出向を命じる権利がないため、社員は出向を拒否することが可能です。

出向により従業員が大きな不利益を被る場合

4つ目は、出向により従業員が大きな不利益を被る場合です。

異動辞令をだす場合、企業は従業員の生活に大きな支障がでないよう配慮する必要があります。

出向により従業員が大きな不利益を被るケース
  • 賃金が大幅に減額される
  • 持病の治療ができない環境になってしまう
  • 家族の介護をする人がいなくなる
  • 生後間もない子を1人で育てている人への出向 など

上記のように、出向により従業員が大きな不利益を被るケースの場合、出向を拒否する正当な理由があると認められる可能性が高いです。

まとめ・出向がキャリアアップにつながる可能性もある!

出向には主に「在籍出向」と「転籍出向」があります。在籍出向とは、出向元企業との雇用関係を維持したまま出向先企業で働くこと。社員の成長や人事戦略、企業間の関係構築を目的とする場合が多く、実力のある社員が出向を命じられるケースも少なくありません。

一方、転籍出向とは、出向元企業との雇用関係を解消して、出向先企業と雇用関係を締結し、出向先企業で働くこと。出向元企業に戻るケースはほぼないため、雇用調整を目的として行われる場合が多いです。

出向にネガティブなイメージを抱く人も多いかもしれませんが、企業は出向を命じる社員に期待を抱いているケースも多々あります。

出向に選ばれる人には必ず理由があります。出向を命じられた場合はマイナス面ばかり考えず、キャリアアップにつながるとポジティブにとらえることも重要です。

参考資料

厚生労働省|在籍型出向支援

この記事の監修者

上田優佳 【キャリアアドバイザー】

キャリアアドバイザーとして、転職相談2,500名以上、紹介企業数10,000社以上に対応。年間1,000名以上の履歴書、職務経歴書を作成。主に医療・介護業界の人材紹介を担当。

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