定年退職の前後にやっておくべきこと特集 - 退職金・年金・健康保険・失業保険の手続き
定年退職前にやっておくべきこと、準備しておくことはたくさんあります。退職金や年金、健康保険、失業保険、そして再就職時の失業保険の手続きについて解説します。
- 目次
定年退職前に退職金の手続きをしよう
勤め先によっては退職金制度がないこともありますが、制度がある場合には、退職前に手続きをしておきましょう。
退職金を「一時金」で受け取る場合
退職金を一時金として受け取る場合は、原則として確定申告は必要ありません。勤務先に退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)を提出しておけば、源泉徴収で課税関係が終了します。一時金の場合は退職所得控除があり、税負担が軽くなっています(※)。
受け取り方法は、退職から1〜2か月後に指定した銀行口座に振り込まれることが一般的です。退職金についてわからないことがあったら、在職中に確認しておきましょう。
※退職金と税|国税庁
退職金を「年金」で受け取る場合
退職金を一時金ではなく年金として受給する方法を選べることもあります。この場合の課税は、公的年金等の雑所得の扱いになります。税金を毎年払うことになるので、退職後にまとめて確定申告をする必要はありません。
公的年金等の雑所得にも所得控除があり、控除額は年齢と所得額によって決まります(※)。
※No.1600 公的年金等の課税関係|国税庁
年金受給の手続きは請求書が届いたら行おう
年金の受給は原則65歳からですが、受給開始の年齢を段階的に引き上げるため「特別支給の老齢厚生年金」の制度があります。厚生年金などに1年以上加入していた人で、男性は1961(昭和36)年4月1日以前生まれ、女性は1966(昭和41)年4月1日以前生まれが対象です(※)。
受給可能なタイミングの3か月前に、日本年金機構から年金請求書など案内が送られてきます。65歳で受給権が発生する人には、65歳になる3か月前に年金請求書が届きます。
いずれの場合も、受給できる年齢になる前に請求書を提出しても受け付けされませんので、送られてきた案内に従って手続きをしましょう。
年金について個別の相談がある人は、年金事務所か、街角の年金相談センターに予約をして相談に行くことをおすすめします。
※特別支給の老齢厚生年金を受給するときの手続き|日本年金機構
年金の請求に必要なもの
年金請求書のほかに必要な書類は基本的には以下の3点です。
- 戸籍謄本や住民票など生年月日がわかる書類(提出日から6か月以内に交付されたもの。単身者で年金機構にマイナンバーが登録されているときは不要)
- 預金通帳など振り込み口座の情報がわかるもの。コピー可
- 雇用保険被保険者証(雇用保険に加入していた場合)
年金請求用に住民票などを市区町村の窓口で発行するときは、無料で発行してもらえます。
このほか、ご本人の状況によって必要な添付書類がありますので、届いた案内で確認してください。
企業に年金手帳(基礎年金番号通知書)を預けている場合は、退職時に受け取る
「年金請求書」は受給可能なタイミングの3か月前に送られてくる仕組みになっています。「年金手帳」を自分で持っておらず、企業に預けている場合は、忘れずに返却を依頼しましょう。
なお、年金手帳は2022年4月に廃止され、新たに「基礎年金番号通知書」へ生まれ変わりました。2022年4月以降は年金手帳を紛失すると、基礎年金番号通知書が発行されることになります。
年金受給や任意加入などの切り替え時には、年金手帳がある人は年金手帳を、年金手帳を紛失した人は基礎年金番号通知書を発行して手続きを行ってください。
年金手帳の廃止と、基礎年金番号通知書の取り扱い方については、下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
基礎年金番号通知書とは?今ある年金手帳はどうすればいいかを社労士が解説
どの健康保険に入るか検討する
退職したあと、どの健康保険に入るかを先に考えておかなければなりません。
定年退職後の健康保険の選択肢は4つありますので、退職前にどれを選ぶか、検討しておきましょう。
1.退職した会社の健康保険を任意継続する
退職から2年間は、所属していた会社の健康保険を任意継続することができます。
ただし事業主が半額を負担してくれることがなくなるため、退職前と比べると保険料は2倍になります。とはいえ比較的保険料が少なくて済む方法です。
任意継続ができる要件は、退職日までに継続して2か月以上の被保険者期間があることと、退職後20日以内に所定の申出書を提出することです。
退職前に勤務先に伝えておけば、申出書を退職時に用意してくれたり、手続き方法について教えてもらえたりするので、早めに連絡しましょう。
窓口は居住地域の協会けんぽ支部か健保組合になります。
2.被扶養者として家族の健康保険に加入する
退職後に働かないか、働くとしても年収が低くなる場合は、家族が加入する健康保険に被扶養者として加入することができます。被扶養者になれば、本人の保険料負担はなくなります。この手続きは、被保険者となる家族の勤め先で行います。
被扶養者として認められる範囲は三親等内の親族で、配偶者・子・孫・兄弟姉妹などです。
また、同一世帯か、そうでないかによって収入の要件が違います。
共通しているのは年間収入で、60歳以上のときは年収180万円未満の人が対象です。収入には雇用保険の失業手当や年金も含まれます。
同一世帯のときは「年収180万円未満かつ2分の1未満であるか、または年収180万円未満かつ被保険者の年間収入を上回らない場合」で、同一世帯でないときは「年収180万円未満かつ被保険者の援助による収入額より少ない場合」が要件となります。
3.国民健康保険に加入する
国民健康保険に加入する選択肢もあります。日本は国民皆保険(こくみんかいほけん)制度のため、1の任意継続や、2の扶養者の健康保険のどちらも選ばなかったら、国民健康保険に加入することになります。
加入の手続きは、退職日の翌日から14日以内に市区町村の役場で行います。このときに必要な書類は、健康保険資格喪失証明書や退職証明書など退職日がわかるものと、写真つきの本人確認書類、離職票などです。
もしも手続きをしなかった場合は、退職の翌日が加入日となり、遡って保険料を徴収されるので注意が必要です。
任意継続か、被扶養者として家族の健康保険に加入するか、国民健康保険か、定年退職前に決定しておけば、関係者への連絡も早めにでき、手続きもスムーズに進むでしょう。
あらかじめ市区町村の窓口に確認しておくことをおすすめします。
4.特定健康保険組合の特例退職被保険者へ切り替える
特定健康保険組合とは、おもに大企業の健保組合が退職者向けに設けているもので、この制度の加入者が特例退職被保険者です。特定健康保険組合自体が少ないため、加入できる人も限られています。
任意継続と同じく保険料は全額自己負担ですが、任意継続が2年間の期限なのに対し、特定健康保険組合は74歳まで加入できます。74歳までというのは、75歳からは後期高齢者の医療保険になるからです。
なお、特例退職被保険者になるには下記の条件を満たす必要があります。
- 老齢厚生年金の受給資格者である(年金を受給している)
- 健保組合の被保険者期間が20年以上あった、あるいは40歳以降10年〜15年以上あった(健康保険組合によって異なる)
手続きについては、特定健康保険組合ごとに異なります。特定健康保険組合がある会社で、退職前に会社から案内がなかったら、会社か健保組合に問い合わせてみてください。
再就職・再雇用を前向きに考えよう
現在は60歳で定年退職となっても、再就職や再雇用で働き続ける人が多くなりました。
定年前の収入からはダウンすることが多いですが、生活の満足度を上げるためにも、働きたいあいだは働き続けることが大切なのではないでしょうか。
失業手当の手続きを進めよう
退職後に別な会社に再就職をする場合は、雇用保険の失業手当の受給手続きをしましょう。
ハローワークに離職の手続きをして求職活動をすることで、失業認定がされて受給できるようになります。
65歳未満の人は4週間に1回、65歳以上の人は一時金のため1回、失業の認定を受ける必要があります。
失業手当の給付日数は、雇用保険の被保険者期間によって決まります。
通常の定年退職の場合には、60歳以上65歳未満で退職すると最長で150日間となります。
1年未満ですと0日、1年以上10年未満で90日、10年以上20年未満で120日、20年以上なら150日と定められています。
被保険者期間が過去2年間に通算して12か月以上ないと支給対象とならないという条件もあるので気をつけましょう。
失業手当の給付額は、退職する前の6か月間における給与の総額を180で割った額に基づいて計算されます。給付額は日額として計算される仕組みで、給与の総額÷180の金額の45%~80%程度の支給となります。
再就職のときの失業手当の注意点
退職後に再就職をするときには、申請可能な期間について注意が必要です。
失業手当は原則として退職日の翌日から1年間しか受給資格がありません。
ただし、定年退職日の翌日から2か月以内にハローワークで手続きをすれば、受給期間を1年間延長することが可能です。再就職前に少し休みたいと思っている場合には、退職したら速やかに手続きを行っておきましょう。
同じ会社に再雇用されるときは、会社が高齢者雇用継続基本給付金に関わる手続きをします。
この給付金は、雇用保険に加入していた期間が5年以上ある人で、60歳以上65歳未満の人が対象です。給与が60歳の時点に比べて75%未満になった場合に支給されます。
2か月単位で申請の手続きをするため、再雇用されてもすぐには振り込まれませんので注意しましょう。
失業手当については、下記の記事でさらに詳しく解説していますので、参考にしてください。
失業手当を受給するには?給付のポイントと高年齢求職者給付金についても解説
準備を整えて退職後の手続きをしよう
定年退職の前後には、退職金、年金、健康保険、再就職など、さまざまな手続きが必要です。
定年退職後の生活を充実させるためには、必要な資金を確保しつつ、準備しておくことが大切です。
定年退職を迎えるときには、手続き方法を整理しておき、必要な準備を少しずつ整えていくようにしましょう。
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この記事の監修者
谷口芳子 【社会保険労務士】
NPO法人や税理士法人を経て現職。社会保険労務士として、社会保険・雇用保険の各種届出、年末調整、労務相談、公正証書作成などの業務を担当。行政書士資格保有。