離婚後に年金分割しないとどうなる?手続きの流れやいくら増えるかも!
離婚後は年金分割を忘れずに! 手続きの流れを解説
たとえ離婚したとしても婚姻期間中に築いた財産は夫婦の共有財産です。それは、支払い済みの厚生年金も同様です。この記事では、年金分割の種類や手続き方法、よくある質問などをご紹介します。
- 目次
- 年金分割とは
- 年金分割とは厚生年金の保険料納付記録を分割する制度
- 年金分割は婚姻期間中に加入していた厚生年金が対象
- 年金分割に結婚年数は関係しない
- 年金分割の種類
- 話し合いで割合を決める【合意分割】
- 話し合い無しで手続きできる【3号分割】
- 年金分割で将来の年金受給額はどう変わる?
- 年金分割後の受給額の変化
- 年金分割しないとどうなる?
- 年金分割|手続きの流れ
- 合意分割の場合
- 3号分割の場合
- 年金分割に関するよくある質問
- いつまでに手続きすればいいですか?
- 分割された年金はいつから受け取れますか?
- 再婚した場合は年金受給額はどうなりますか?
- 年金分割を受けているが死亡した場合、その後はどうなりますか?
- 年金分割を拒否できるのはどんなケースですか?
- 事実婚でも年金分割は可能ですか?
- まとめ・離婚後は年金分割が必要か否かを慎重に検討しよう
年金分割とは
まずは、年金分割とはどのような制度なのかを改めて確認していきましょう。
年金分割とは厚生年金の保険料納付記録を分割する制度
年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割する制度のことです。夫婦が婚姻期間中に築いた財産は基本的に共有財産になることから、支払い済みの年金保険料も分割されます。
ただし、将来受け取れる年金受給額を分割する訳ではありません。分割されるのは、婚姻期間中に納めた年金保険料。勘違いしないように注意しましょう。
分割は、夫婦のうち、厚生年金の保険料納付額が多い人から少ない人へされるため、「夫→妻」のケースもあれば「妻→夫」のケースも生じます。
年金分割は婚姻期間中に加入していた厚生年金が対象
年金分割の対象となるのは、婚姻期間中に加入していた厚生年金が対象です。
つまり、対象となるのは、会社員や公務員の人で、国民年金のみ加入の自営業者は対象になりません。
また、対象となる期間は婚姻期間中のみで、婚姻期間以外の厚生年金加入期間は対象外となります。
年金分割に結婚年数は関係しない
年金分割を行う際に結婚年数は関係ないため、結婚年数が短くても年金分割は可能です。
ただし、対象となるのは婚姻期間中に納めた厚生年金保険料のため、あまりにも短いと将来受け取る年金額に大きな変化はないかもしれません。
年金分割の種類
年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
合意分割 | 3号分割 | |
---|---|---|
夫婦間の | 話し合いで双方の | 合意の必要は |
申し立て | 夫もしくは妻の | 3号被保険者 |
制度の | 2007年4月1日 | 2008年4月1日 |
対象期間 | 婚姻期間中 | 2008年4月1日以降で |
分割割合 | 話し合いで決定 | 一律で保険料 |
それぞれの詳細を確認してみましょう。
話し合いで割合を決める【合意分割】
合意分割は、夫婦の話し合いで割合を決める方法です。当事者間で合意が得られなかった場合は、家庭裁判所に申し立てを行い、調停もしくは審判により分割割合を決定します。
合意分割の制度が開始されたのは2007年4月1日ですが、婚姻期間中であればそれ以前の期間も対象です。また、分割割合は一律で定められている訳ではなく、上限50%の範囲内で話し合いで決定します。
話し合い無しで手続きできる【3号分割】
3号分割は、3号被保険者が単独で手続きする方法です。つまり、夫婦間の合意は必要ありません。請求者が年金の3号被保険者の場合に利用できます。
対象となるのは、2008年4月1日以降の年金の3号被保険者だった期間。分割割合は一律で50%と決められています。
年金分割で将来の年金受給額はどう変わる?
年金分割は年金受給額ではなく、厚生年金の保険料納付記録を分割する制度です。では、将来受け取れる年金受給額にはどれくらいの影響があるのでしょうか?
年金分割後の受給額の変化
以下は、厚生労働省が発表している年金分割後の受給額の変化です。(※1)
■年金分割された人の月の年金受給額
合意分割 | 3号分割(女性) | |
---|---|---|
分割前 | 55,215 | 44,555 |
分割後 | 87,949 | 51,793 |
差額 | 32,734 | 7,238 |
■年金分割した人の月の年金受給額
合意分割 | 3号分割(男性) | |
---|---|---|
分割前 | 146,961 | 139,271 |
分割後 | 115,363 | 131,139 |
差額 | 31,598 | 8,132 |
合意分割の場合、分割した人された人共に約3万円の変化が生じていることがわかります。
「意外と少ない」と感じる人もいるかもしれませんが、年間にすると36万円。これが、生存している限り続くと考えると、大きな影響であることがわかるでしょう。
一方、3号分割の場合は、分割した人された人共に約7千円の変化が生じていることがわかります。分割対象が「2008年4月1日以降の年金の3号被保険者だった期間」のため、期間が短いことが原因かもしれません。
老齢年金は生存している限り続くことを考慮すると、可能であれば合意分割を選択することがおすすめです。
※1:厚生労働省|令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況
年金分割しないとどうなる?
年金分割は離婚したらかといって自動的に行われる訳ではないため、夫婦のどちらかが申請しなくてはなりません。では、婚姻期間中に厚生年金の加入期間があるにも関わらず年金分割しなかった場合はどうなるのでしょうか?
結論としては、当事者が納得していれば年金分割しなくても何も問題ありません。厚生労働省のデータでも年金分割をする人は意外と少ないことがわかっています。(※2)
年金分割の件数と離婚件数に対する割合
- 離婚件数:180,583組
- 年金分割総数:32,927件(18.2%)
- 合意分割:21,893組(12.1%)
- 3号分割:11,034組(6.1%)
婚姻期間が長く専業主婦・夫をしていた人は、年金分割を申請しないと、将来の年金受給額が少なくなってしまう可能性が考えられます。
老後は若い頃と異なり、収入を増やすことは簡単ではありません。離婚後は尚更です。安定した老後を迎えるためにも、離婚後は年金分割を行うか否かを慎重に検討しましょう。
※1:厚生労働省|令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況
年金分割|手続きの流れ
老後の生活に重要な影響を与える年金分割。どのような流れで手続きを行うのでしょうか?
ここでは、年金分割の手続きの流れをご紹介します。
合意分割の場合
まずは、合意分割の流れを確認してみましょう。合意分割の場合は、夫婦でしっかり話し合うことが重要なポイントになります。
ステップ①【年金分割のための情報通知書】の受取をする
まずは、「年金分割のための情報通知書」の受取を行います。
「年金分割のための情報通知書」の受取を行うためには、「年金分割のための情報提供請求書」を年金事務所に提出しなければなりません。「年金分割のための情報提供請求書」は日本年金機構のホームページからダウンロード可能です。
年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を提出すると、1週間程度で郵送で「年金分割のための情報通知書」が送られてきます。
「年金分割のための情報通知書」には、以下のような年金分割の割合を決めるための情報が記載されています。
年金分割のための情報通知書に記載されている内容
- 年金分割できる範囲
- 対象となる期間の情報 など
なお、提出は夫婦のどちらかが単独で行うことも可能です。
ステップ②分割割合について話し合う
「年金分割のための情報通知書」が届いたら、記載されている内容を基に夫婦で分割割合について話し合いをします。
双方の合意が得られたら、内容を公正証書として残しておくことがおすすめです。公正証書を作成しない場合でも、合意書は必ず作成しましょう。
夫婦の話し合いで決まらない場合は、家庭裁判所で調停を申し立てます。調停でも決まらない場合は、審判により分割割合が決定されます。
調停・審判
- 調停とは:当事者同士が調停委員を介して話し合いをすること
- 審判とは:事実を調査して、家庭裁判所が分割割合を決定すること
ちなみに、年金分割の調停の99%で分割割合50%の結果がでています。
ステップ③年金事務所で年金分割改定請求手続きを行う
分割割合が決まったら、「標準報酬改定請求」や「年金分割の合意書」を提出し、年金分割改定手続きを行います。書類は、日本年金機構のホームページからダウンロード可能です。
なお、「年金分割の合意書」を提出する際には、基本的に夫婦2人で年金事務所に出向く必要があります。
ステップ④【標準報酬改定通知書】を受け取る
年金分割改定手続きを行ってから2〜3週間程度で、「標準報酬改定通知書」が双方に郵送されます。
「標準報酬改定通知書」には年金分割により変更された年金記録が記載されているため、届いたらしっかり内容の確認を行いましょう。
以上で、手続きは終了です。
ステップ⑤合意分割の必要書類
合意分割に必要な書類は以下の通りです。
合意分割に必要な書類
- 年金分割のための情報提供請求書
- 標準報酬改定請求書
- 年金分割の合意書
- 年金手帳 もしくは 基礎年金番号通知書
- 戸籍謄本などの婚姻期間を証明できる書類
- 請求日前1ヵ月以内に作成された2人の生存を証明できる書類
- 本人確認書類 など
ケースによっては必要な書類が増えることもあるため、手続き前には年金事務所に確認しましょう。
3号分割の場合
3号分割の場合も、大まかな手続きの流れは変わりません。話し合いが無い分、一部の書類や手続きがなくなります。
3号分割に必要な書類
- 年金分割のための情報提供請求書
- 標準報酬改定請求書
- 年金手帳 もしくは 基礎年金番号通知書
- 戸籍謄本などの婚姻期間を証明できる書類
- 請求日前1ヵ月以内に作成された2人の生存を証明できる書類
- 本人確認書類 など
なお、手続きは全て、年金の3号被保険者だった人が行います。
年金分割に関するよくある質問
最後に、年金分割に関するよくある質問をご紹介します。ぜひ、参考にしてください。
いつまでに手続きすればいいですか?
年金分割の請求期限は、原則として離婚した翌日から2年以内です。万一、離婚後に請求相手が死亡した場合は、死亡日から起算して1ヶ月以内に短縮されるため、注意しましょう。
なお、調停や審判を申し立てた場合は、離婚した翌日から2年を過ぎていたとしても、結果がでた日の翌日から6ヶ月以内に延長されます。
分割された年金はいつから受け取れますか?
年金分割は、あくまでも婚姻期間中に納めた厚生年金保険料を分割する制度です。そのため、年金の受取時期に変更はなく、原則的には65歳から受給開始されます。
また、すでに老齢年金を受給している人は、請求があった日の翌月分から分割された年金記録分の変更が開始されます。
なお、老齢年金を受け取るために必要な10年間の保険料納付済期間がない場合は、年金分割を請求しても老齢年金は受給できません。
再婚した場合は年金受給額はどうなりますか?
年金分割後に再婚しても、年金受給額が変わることはありません。年金分割は婚姻中の共有財産を分割しているため離婚後の婚姻事情は関係しない、という考え方です。
年金分割を受けているが死亡した場合、その後はどうなりますか?
年金分割を受けている人が死亡しても、年金分割している人への影響は何もありません。死亡した人の分の年金保険料が戻ることも、年金受給額が増えることもありません。
年金分割を拒否できるのはどんなケースですか?
年金分割を拒否できるのは主に以下のケースです。
年金分割を拒否できるケース
- 年金分割を請求しないことで双方の合意を得ている場合
- 配偶者に3号被保険者の期間がない場合
- 請求期限が過ぎている場合 など
事実婚でも年金分割は可能ですか?
事実婚でも以下の条件をすべて満たす場合は年金分割が可能です。
事実婚で年金分割可能な条件
- 事実婚の期間中に、一方が他方の3号被保険者であった期間があること
- 3号被保険者の資格を喪失していること
- 事実婚を解消した事実が客観的に認められること
まとめ・離婚後は年金分割が必要か否かを慎重に検討しよう
年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割する制度のこと。夫婦の話し合いで分割割合を決める合意分割と、3号被保険者が単独で手続きできる3号分割の2種類があります。
「離婚後はできるだけ相手と連絡を取りたくない」と考える人もいるかもしれません。しかし、老後の主な収入は年金のため、年金分割は老後の生活に大きな影響を及ぼします。
老後は若い頃と異なり、収入を増やすことは簡単ではありません。離婚後は尚更です。安定した老後を迎えるためにも、離婚後は年金分割を行うか否かを慎重に検討しましょう。
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参考資料
この記事の監修者
岡地 綾子 【ファイナンシャル・プランナー】
2級ファイナンシャル・プランニング技能士。 年金制度や税金制度など、誰もが抱える身近な問題の相談業務を行う。 得意分野は、生命保険・老後の生活設計・教育資金の準備・家計の見直し・相続など。