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年金の経過的加算とは?計算方法やもらえない人など疑問を徹底解説!

新名範久 【税理士・社会保険労務士】

お金

60歳以降も働くと経過的加算は増える!?
計算方法やもらえない人も解説!

ねんきん定期便に記載されている「経過的加算」をよく知らない人は多いでしょう。この記事では、厚生年金の経過的加算の概要や計算方法、60歳以降も働いた場合の影響などについて解説します。

目次

経過的加算とは?理解するための周辺情報も

経過的加算とは?

まずは、経過的加算の詳細と経過的加算を理解するための周辺情報を確認していきましょう。

経過的加算とは「特別支給の老齢厚生年金の定額部分」との差額を穴埋めするもの

経過的加算とは、60歳から受け取っていた「特別支給の老齢厚生年金の定額部分」との差額の穴埋めをするもののことです。(※1)

特別支給の老齢厚生年金とは、1986年4月に厚生年金の受給開始年齢が引き上げられた際、経過措置として設けられた制度のこと。報酬比例部分と定額部分から成り立ちます。

特別支給の老齢厚生年金の受給期間は60〜65歳まで。65歳以降は老齢年金に切り替わります。この際、特別支給の老齢厚生年金の定額部分は老齢基礎年金に移行するかたちになりますが、このときに生じる差額を穴埋めするものが、経過的加算です。

特別支給の老齢厚生年金の受給期間は60〜65歳まで。65歳以降は老齢年金に切り替わります。この際、特別支給の老齢厚生年金の定額部分は老齢基礎年金に移行するかたちになりますが、このときに生じる差額を穴埋めするものが、経過的加算です。

※1:日本年金機構|経過的加算

特別支給の老齢厚生年金の受給要件

特別支給の老齢厚生年金を受給できるのは、以下の要件を満たしている人です。(※2)

特別支給の老齢厚生年金の受給要件
  1. 男性は1961年4月1日以前生まれ・女性は1966年4月1日以前生まれである
  2. 老齢基礎年金の受給資格期間が10年以上ある
  3. 厚生年金等に1年以上加入していた
  4. 生年月日に応じた受給開始年齢に達している

■男性の生年月日に応じた受給開始年齢

■女性の生年月日に応じた受給開始年齢

なお、経過的加算を受け取れる期間は、原則65歳から一生涯です。

※2:日本年金機構|特別支給の老齢厚生年金

年金の加入期間も経過的加算に関係している

次は、年金の加入期間から経過的加算を確認してみましょう。

国民年金の最大加入期間は、20〜60歳の40年間です。国民年金の保険料を40年間納めた人が、65歳以降に老齢基礎年金を満額受け取れます

現在の国民年金制度は20歳になると自動的に加入することになっていますが、強制加入の制度になったのは1991年4月以降。それまでは20歳以降の学生などに加入の義務はなく、任意加入の制度でした。

そのため、現在50代半ば以降の人は、国民年金の被保険者期間が40年に満たない人が多いことになります。

一方、厚生年金の最大加入期間は義務教育終了〜70歳まで。厚生年金加入期間中は、国民年金も納めています。すると、どういうことが起こるでしょうか?

20歳前や60歳以降も厚生年金に加入していた人は、納めていた保険料が老齢基礎年金に反映されない期間が生じることが考えられます。

例えば、大学卒業後の22歳に就職し、厚生年金に加入。同じ会社で62歳まで働いた場合の国民年金の被保険者期間は、「60歳−22歳」=38年間です。

60歳から62歳まで納めていた2年間分の国民年金の保険料は、老齢基礎年金に反映されません。そのため、この2年分の老齢基礎年金に相当する部分が、経過的加算として上乗せされます。

例えば、大学卒業後の22歳に就職し、厚生年金に加入。同じ会社で62歳まで働いた場合の国民年金の被保険者期間は、「60歳−22歳」=38年間です。  60歳から62歳まで納めていた2年間分の国民年金の保険料は、老齢基礎年金に反映されません。そのため、この2年分の老齢基礎年金に相当する部分が、経過的加算として上乗せされます。

なお、経過的加算が反映される期間には「厚生年金加入期間が480月になるまで」という上限があるため、注意しましょう。

在職老齢年金は対象外

在職老齢年金とは、60歳以降に厚生年金に加入しながら受け取る老齢厚生年金のことです。受け取れる年金額は、年金額や給与などにより減額もしくは全額支給停止されることがあります。

しかし、経過的加算は在職老齢年金の対象外です。つまり、経過的加算部分は減額も支給停止もされません。(※3)

※3:日本年金機構|在職老齢年金・留意事項

「年金は働くと減る?定年後に年金が減らない働き方を徹底解説」
在職定時改定で年金受給額はいくら増える?65歳以上の働く人必見!

経過的加算の計算方法

経過的加算の計算方法

では、経過的加算で支給される金額はいくらぐらいなのでしょう?ここでは、経過的加算の計算方法をご紹介します。

経過的加算は「A(特別支給の老齢厚生年金の定額部分)−B(厚生年金の老齢基礎年金部分の金額)」で計算します。(※4)

経過的加算の計算方法(A−B)
  • A:1,657円×厚生年金加入月数(上限480月)
  • B:795,000円×厚生年金加入月数(20歳~60歳の期間)÷480

なお、上記は2023年4月1日現在の金額で、今後も変動の可能性があります。また、すでに68歳以上の人は「Aの1,657円を1,652円」で、「Bの795,000円は792,600円」で計算します。

例として、22〜62歳まで40年間厚生年金に加入した人の経過的加算額を確認してみましょう。

計算例
  • A:1,657円×480月=795,360円
  • B:795,000円×456月÷480月=755,250円
  • A−B:795,360円−755,250円=40,110円

上記のケースの場合、年間40,110円が経過的加算として支給されます。

※4:厚生労働省|年金制度の仕組みと考え方

経過的加算がもらえる人とは?

経過的加算がもらえる人とは?

経過的加算の概要が把握できたところで、経過的加算がもらえる人やもらえない人を確認しておきましょう。

もらえる人・もらえない人の前提条件

まずは前提として、以下のポイントを覚えておきましょう。

経過的加算をもらえる人・もらえない人
  • もらえる人:「特別支給の老齢厚生年金の定額部分の金額」「65歳以降に受給する老齢基礎年金の金額」の場合
  • もらえない人:厚生年金に加入したことがない人・老齢基礎年金の受給要件を満たしていない人

老齢基礎年金の受給要件とは、受給資格期間が10年以上あることです。受給資格期間には、保険料納付期間の他に、以下の期間が含まれます。(※5)

受給資格期間の対象
  • 保険料免除期間
  • 1986年3月以前で国民年金に任意加入しなかった期間
  • 1991年3月以前、学生であることが理由で国民年金に任意加入しなかった期間
  • 1961年4月以降に海外に住んでいた期間

なお、上記の期間は受給資格期間には含まれますが、年金額には反映されません。

※5:日本年金機構|老齢基礎年金の受給要件

もらえる人の具体例

次に、国民年金や厚生年金の加入期間による違いを具体例で確認していきましょう。

20〜22歳まで国民年金未納・22歳で就職し62歳まで会社員として働いた人

20〜22歳まで国民年金未納・22歳で就職し62歳まで会社員として働いた人は、国民年金の未納期間2年分を60〜62歳の2年で補っているため、65歳以降に経過的加算が上乗せされます。

上記のケースの場合、国民年金の未納期間2年分を60〜62歳の2年で補っているため、65歳以降に経過的加算が上乗せされます。

では、学生時代に国民年金を納めていた人は経過的加算はもらえないのでしょうか?次の例で確認してみましょう。

20〜60歳まで国民年金の未納期間なし・22歳で就職し62歳まで会社員として働いた人

20〜60歳まで国民年金の未納期間なし・22歳で就職し62歳まで会社員として働いた人は、経過的加算の上限は厚生年金加入期間が480月になるまでのため、経過的加算の対象になる

上記のケースの場合、20歳から国民年金を納めているため、60歳の時点で国民年金の加入期間は40年。一見経過的加算はもらえないと思いがちですが、経過的加算の上限は厚生年金加入期間が480月になるまでのため、経過的加算の対象になるのです。

60歳以降も働くことで経過的加算が増えるケースもある!

60歳以降も働くことで経過的加算が増える

ここまでの解説でお気づきになった人もいるかもしれませんが、経過的加算には満額に満たない老齢基礎年金の穴埋めのような役割もあります。つまり、60歳以降も働くことで経過的加算が増えるケースも多いのです。

国民年金加入期間が40年に満たない場合には、最長70歳まで継続加入できる「任意加入制度」もあります。しかし、60歳以降も働いて厚生年金に加入すると、満額の老齢基礎年金と同等程度の経過的加算が厚生年金に上乗せされるのです。

また、報酬比例部分も増えるため、受け取れる年金額がさらに増えるメリットもあります。

60歳以降も働くことで経過的加算が増えるケースも多い 報酬比例部分も増えるため、受け取れる年金額がさらに増えるメリットも

公務員の定年が段階的に65歳に引き上げられたことを象徴するように、近年、多くの企業で定年引上げや継続雇用制度が導入され、65歳や70歳まで働く人が増えています。

60歳以降も働くことで受け取れる年金額が増えることは、多くの人の働くモチベーションになるのではないでしょうか?

特に、今までに第1号被保険者や第3号被保険者期間がある人は、経過的加算の上限である480月に達するまで多くの月数が残っている可能性があります。

近年、パート等の社会保険適用拡大が図られていることからも、経過的加算が受け取れるケースが増えるかもしれません。

今一度、ねんきん定期便などで加入期間の確認をしてみてはいかがでしょうか?

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経過的加算が設けられた背景と今後

経過的加算が設けられた背景と今後

最後に、経過的加算が設けられた背景と今後について把握しておきましょう。

一昔前は、国民年金・厚生年金・共済年金はそれぞれのルールに基づき、個別に存在していました。そして、1986年にすべての年金に共通する基礎年金制度が導入された後に、65歳以降に受け取る老齢厚生年金の定額部分は老齢基礎年金に移行されたのです。

ただし、それまでは厚生年金の定額部分と報酬比例部分がセットで支給されていたこともあり、定額部分と老齢基礎年金の計算方法に若干の違いがありました。計算の違いにより65歳以降に受け取る年金額が少なくならないように生まれたのが、経過的加算です。

このような背景から、経過的加算の規定には「当分の間」という文言がついていました。しかし、現在は本来の目的である「定額部分の穴埋め」とは関係のない人にも適用されているのが現状です。

一方で、「国民年金の保険料納付可能期間を65歳に達するまでに延長する」という制度改正が検討されているという話も耳にします。

もしこれが実現すれば、定額部分の月数は「480月から540月」に、被保険者期間は「20歳以上60歳未満から20歳以上65歳未満」というように、経過的加算の規定が見直されることが想定されます。

その結果、制度改正で納付期間が延長された分、老齢基礎年金の年額を多少増額することも検討されるでしょう。

これらのことを考慮すると、恐らくこれまでよりも適用のメリットが小さくなるのではないでしょうか。このことに留意しつつ、制度の将来を見守って行きたいと思います。

まとめ・経過的加算を理解し損のない働き方を

経過的加算とは、60歳から受け取っていた「特別支給の老齢厚生年金の定額部分」との差額を穴埋めするもののことです。

一方で、満額に満たない老齢基礎年金を補足する役割もあるため、60歳以降も働くことで経過的加算が増えるケースもあります。

この機会に、ねんきん定期便などで現在の年金額を確認してみてはいかがでしょうか?60歳以降も働くことで受け取れる年金額が増えることは、多くの人の働くモチベーションになるはずです。

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参考資料

日本年金機構|経過的加算
日本年金機構|特別支給の老齢厚生年金
日本年金機構|在職老齢年金・留意事項
厚生労働省|年金制度の仕組みと考え方
日本年金機構|老齢基礎年金の受給要件

この記事の監修者

新名範久 【税理士・社会保険労務士】

「新名範久税理士・社会保険労務士事務所」所長。 建設、不動産、理美容、小売、飲食店、塾経営といった幅広い業種の法人や個人の税務・会計業務を行う。社会保険労務士として、法人の社会保険業務も担当。1人でも多くの人に、税金に対する理解を深めてもらいたいと考え、業務を行っている。 税理士、社会保険労務士、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、測量士補、CFP、FP技能検定1級、年金アドバイザー2級、証券外務員1種などの資格を保有。

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