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年金は働くと減る?定年後に年金が減らない働き方を徹底解説

新名範久 【税理士・社会保険労務士】

お金

年金は働くと減る?は本当!?
定年後に年金が減らない働き方を徹底解説

「アクティブシニア」という言葉があるように、年金が受給できる年齢になっても、気力体力が続く限り就業する人が増えました。 しかし、定年後の働き方によっては、年金が減額されてしまうケースがあります。ある基準以上に達すると、「老齢厚生年金」が減額されてしまうのです。 今回は、どのような働き方をすると年金が減額されるのか、また、減額されずに働くための対策方法を解説します。

目次

老齢基礎年金と老齢厚生年金の違い

まず、老齢年金の種類について解説しておきましょう。年金には「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2つがあります。

日本年金機構のホームページでは、老齢基礎年金と老齢厚生年金の違いについて、下記のように説明されています。

老齢基礎年金は、国民年金や厚生年金保険などに加入して保険料を納めた方が受け取る年金で、加入期間に応じて年金額が計算されます。

老齢厚生年金は、会社にお勤めし、厚生年金保険に加入していた方が受け取る年金で、給与や賞与の額、加入期間に応じて年金額が計算されます。

参考:「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の違いは何ですか。|日本年金機構

https://www.nenkin.go.jp/faq/nteikibin/teikibinkisainaiyo/nenkingaku/20140602-01.html

自営業やフリーランスで国民年金にのみ加入していた人は「老齢基礎年金」のみを受け取れ、会社員として厚生年金に加入していた人は、老齢基礎年金のほかに老齢厚生年金も受け取れます。

なお、定年後の給与や報酬が一定基準を超えても、老齢基礎年金の支給金額は減額されません。減額の対象となるのは「老齢厚生年金」の金額ですのでご注意ください。

年金が減ってしまうのはどういうとき?

年金が減らない働き方をするにはどうすればいいのか

年金が減額するのは、「60歳以上で厚生年金に加入しながら働き、年金を受給しつつ、規定額以上の収入を得た場合」です。

60歳以降も厚生年金に加入し、働きながら受け取る年金を「在職老齢年金」と言います。なお、2022年4月から在職老齢年金の計算方法が変わりますので、ご注意ください。

月50万円を超えなければ全額支給となる

2022年の3月までは、在職老齢年金の受給者のうち、年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が以下の金額を超える場合、超える部分の金額のうち、基本月額または総報酬月額相当額に応じて所定の方法により計算した金額が毎月支給されるべき年金額から減額されていました。

用語解説
  • 年金の基本月額とは:老齢厚生年金の月額
  • 総報酬月額相当額とは:標準報酬月額+(賞与等÷12)

2022年の3月までの支給停止されない総報酬月額相当額の上限額
  • 65歳未満:28万円超
  • 65歳以上:47万円超

その後、2022年4月には65歳未満の人の支給停止されない総報酬月額相当額の上限額が47万円に引き上げられ、現在(2024年4月以降)は年齢を問わず50万円を超える場合に限って、以下の金額が毎月減額されることになっています。

「基本月額+総報酬月額相当額」が50万円超の場合に減額される金額
  • (総報酬月額相当額+基本月額-50万円)÷2

わかりやすいよう、以下の例で確認してみましょう。


標準報酬月額:34万円
賞与等の総額:113万円
基本月額:10万円

総報酬月額相当額は「34万円+(113万円÷12ヶ月)」=434,166円
控除される金額は「(434,166円+10万円−50万円)÷2」=17,083円

上記のケースの場合、毎月17,083円が基本月額から減額されることになります。

ちなみに国税庁が調査した「令和2年民間給与実態統計調査」によると、60歳から64歳の再雇用期間にある男性の平均年収は521万円であることがわかりました。一方で同年代の女性の平均年収は257万円でした。

※:国税庁|令和2年民間給与実態統計調査

タイムラグに注意

注意すべきことは、タイムラグが生じる可能性もあることです。

総報酬月額相当額の計算の基礎となる標準報酬月額とは、原則として毎年4~6月に支給される報酬の総額の月平均額(賞与など3月を超えて支給されるものは含まれない)を、所定の等級区分に当てはめたものになります。

また、賞与等の金額はその月以前1年間に支給されたものの総額です。

そのため、今年は賞与等がゼロであり、基本月額と直近の平均月収の合計額が50万円を超えていなくても、前年に賞与等が支給されていたことにより年金額が減額される可能性もあります。

また、標準報酬月額が決定された当時よりも月収が下がっているなどの理由により年金額が減額される、というタイムラグが生じることがあるため、注意が必要です。

年金を減らさないためにできる3つの方法

年金生活が不安で好条件の転職や再就職したにも関わらず、就労によって年金がカットされてしまうのは残念です。年金の受給額を減らしたくないのであれば、下記の3つの方法が考えられます。

1.月50万円を超えないように働く

年金の受給額を減らさないためには、基本月額と総報酬月額相当額の合計額が50万円を超えないように働くことです。

たとえば基本月額が10万円の場合ですと、総報酬月額相当額が40万円を超えなければ、年金の支給が停止されることはありません。

もし基本月額と総報酬月額相当額の合計額が50万円を超える可能性が高く、かつ勤務日数や勤務時間の調整などができるのであれば、会社に相談してみるのがよいと思います。

2.年金の支給開始年齢を繰り下げる

65歳以上の受給権者で、現在の給与水準が高く、在職老齢年金の全部又は一部の支給停止が避けられない等の理由によって退職する前に年金の受給を望まないのであれば、支給開始年齢を繰り下げて、退職後に増額された老齢年金を受け取るのも一つの方法です。

ただし繰り下げの上限年齢は75歳(昭和27年4月1日以前生まれの方等は70歳)となっています。

いっぽう、繰り下げを選択した場合でも、繰り下げしなければ在職老齢年金の支給停止になったであろう金額の部分につきましては、増額の対象とはなりません。

また加給年金につきましても、繰り下げていなければ受給できたはずの金額が、繰り下げ支給の際に追給されることはありませんのでご注意ください。

年金の繰下げ受給とは|計算方法や損益分岐点は?手続き方法も解説

3.厚生年金に加入せず個人事業主・フリーランス・自営業やアルバイトとして働く

定年退職後は厚生年金に加入しない働き方を選べば、年金の減額を防ぐことができます。

たとえば、年金を受給するようになったら社会保険に加入が不要な範囲でパートタイムやアルバイトとして就業したり、個人事業主・フリーランス・自営業で働いたりするのです。

個人事業主として業務委託や外注として働くことを考えている人は、下記の記事を参考にしてください。

業務委託・外注の年末調整と確定申告の方法は?定年退職後のシニア事業主のお悩み解決!

短期・単発アルバイトをお考えの人は、下記の記事を参考にしてください。

中高年の短期・単発アルバイトには、どんなお仕事がある?

なお、2022年の10月からは、パート、アルバイトの健康保険・厚生年金保険の適用対象が拡大され、2024年10月からはさらに拡大されることになっていますのでご注意ください。

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年金を減らさない消極的な働き方よりも、たくさん働いたほうが得

働く人のイメージ

今回は、年金を減らさない働き方をまとめましたが、その一方で、これまでに比べて年金の減額が緩和されていることがわかりました。

定年退職されたシニアの中には、心身ともに健康で、年金減額の対象になった場合でも、現役で働きたい気持ちを優先させる人がたくさんいらっしゃいます。

また、45歳以降の中高年世代から資格の勉強に励み、老後は資格を取得して現役時代よりも稼ごうと考えているモチベーションの高い人もいることでしょう。

こういった人たちにとっては、年金の受給額を減らさないように消極的に働くよりは、働けるうちはたくさん働くほうが、得なのかもしれません。

なお2022年4月からは、65歳以上70歳未満の被保険者について、毎年10月に、その年の8月までの被保険者期間を加えて年金支給額を改定する「在職定時改定」の制度が設けられました。高齢になっても働く意欲のある人にとっては、その成果をいち早く実感できる制度であると思います。

さらに在職老齢年金制度につきましても、シニアの就労を阻害するものであるとして、廃止を含めた見直しが検討されています。人手不足が深刻になっている昨今ですので、より働いた方が得をする方向への改正が期待されるところです。

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参考資料

国税庁|令和2年民間給与実態統計調査

この記事の監修者

新名範久 【税理士・社会保険労務士】

「新名範久税理士・社会保険労務士事務所」所長。 建設、不動産、理美容、小売、飲食店、塾経営といった幅広い業種の法人や個人の税務・会計業務を行う。社会保険労務士として、法人の社会保険業務も担当。1人でも多くの人に、税金に対する理解を深めてもらいたいと考え、業務を行っている。 税理士、社会保険労務士、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、測量士補、CFP、FP技能検定1級、年金アドバイザー2級、証券外務員1種などの資格を保有。

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