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シニアの自動車整備士も積極採用する中古車販売店経営者へのインタビュー

シニアタイムズ編集部 【編集部メンバー】

中古車販売店を経営し、年齢に関係なく自動車整備士を積極採用する株式会社ウィル 代表取締役の中村孝也さんにインタビューしました。

目次

自動車整備士は、国家資格の専門職の中でも特に、少子高齢化が進んでいる職業の一つと言えるかもしれません。

いや、むしろ若い労働人口の減少よりも激しいペースで自動車整備専門学校への入学や、資格試験の受験者が減少し、若い担い手の確保が年々難しくなっています。

一方で、自動車整備士はタイヤなど重い部品を扱い、つらい姿勢を続けることなどから腰などを痛めやすく、また体力も必要となることから、経営者や管理職がシニア人材を採用したがらない、採用する場合も人材不足から仕方なく採用する、といった傾向も少なくない状況です。

そうした中、「年齢は関係ない」「若い人が採れないからシニアを採用するわけではない」と話す、中古車販売店経営者の方がいたので、お話をお聞きしました。

お話を聞いた方・中村孝也さん

シニアの自動車整備士も積極採用している株式会社ウィル代表取締役の中村孝也さん
株式会社ウィル 代表取締役。2009年に同社を創業し、代表取締役に就任。当初は中古車販売のみで整備を提供していなかったが、整備工場を経営していた当時50代の自動車整備士の廃業後、自社に受け入れたことが整備の提供とシニア活躍のきっかけに。2022年3月に開店した海老名座間店を含め小田原・神奈川県西部を中心に計4店舗を展開。

シニアが礎を築いた整備サービス

中村孝也さんが代表取締役として経営する株式会社ウィルは、中古車を中心とした車販と整備のサービスを提供する会社ですが、2009年の創業当初は車販のみで、自社での整備は行っていなかったそうです。整備までワンストップで提供するようになったきっかけは、当時50代だった整備士さんの入社でした。

現在既に60代後半となったこの整備士さんの入社によって、ウィルの整備サービスの礎が築き上げられただけでなく、年令に関係なく採用する・活躍できる職場環境につながったそうです。

ちなみにこの時入社した整備士さんは、もともとご自身で整備工場を営んでいらっしゃったものの、そこを閉めることになり、中村さんとご縁があって入社に至ったとのこと。「ピットで死ねれば本望」とまで語る、自動車整備一筋の熱心な方で、ウィルの定年である65歳を超えた今でも、正社員としてフルタイムで勤務している元気な方です。

昨年、シニアジョブがご紹介した当時65歳の整備士・Iさんが採用に至ったのも、このもともと勤めていたシニア整備士さんの活躍があったため。現場の責任者の方をはじめ、多くの社員の方の中に、シニア整備士さんが若い方に教える場面など、活躍する姿が浸透していました。

中村さんの中でも、シニア整備士が会社に与えるメリットやその役割が明確になっていたため、シニアジョブが65歳のIさんを紹介した際も、年齢だけでNGを出すことがなかったのです。

シニアを採用すると若い人も採用できる?

株式会社ウィルの整備工場の様子
 
しかし、まだまだすぐには「60代を積極的に活用しよう」という考えが浸透しないのも事実。これはウィルだけでなく社会全体がそうです。自動車整備業界では特に、無理な姿勢や体力を必要とする業務も多く、それによって腰などを痛める整備士さんが多いこともあって、50代はともかく60代での転職や求人が他の職種より少ない状況です。

ウィルでも、シニアジョブからの65歳の整備士紹介を中村さんに伝えた現場からの言葉は、「ちょっと年齢が高いんでやめときますか?」だったそうです。しかし、中村さんは、

「いや、年齢は全然関係ないよ」

と答え、また、その時点で在籍していた60代社員が若い社員に技術を教えている例を挙げ、とりあえず会って話を聞くべき、と65歳のIさんの面接を行い、2021年の夏に採用となりました。

このように、採用する人材に「年齢は関係ない」というスタンスで、応募があったなら話を聞き、やる気と能力のある人なら積極的に採用するという中村さんですが、人材不足からシニアを狙って採用しているわけではないと言います。「シニアを採用することで、若い人たちも採用できる」という中村さんの真意は、どこにあるのでしょうか。

若いだけでもダメ、シニアだけでもダメ


60代による会社へのメリットを評価し、年齢にこだわらずに採用する中村さんですが、シニア採用を重視しているのではなく、「バランスを非常に重視している」と語ります。

実際にウィルで働く整備士の年齢構成を見ると、20代が2人、30代が2人、40代が1人、60代が2人と、確かにどこかの年代に偏ることなく、バランスが取れていることがわかります。整備士以外にも、事務を担当する方や、販売する車を洗車するスタッフの中にも、60代の方が活躍しているそうです。

「若いだけでもダメだし、シニアだけでもダメだし、両輪でやる感じですね」

と中村さんが強調するように、シニアと若い世代、両極端な2つの世代が相乗効果を発揮しつつ、間に位置する30代40代がクッションや中心となって会社を前進させていくのが「ウィル流」のようです。

60代整備士が社内にいることでの具体的なメリットとしては、長年培った技術を発揮する、それを若手に伝えること以外にも、様々なものがあると中村さんは言います。60代の整備士について、「重石的な人」「いると現場が締まってくる」と中村さんが語るように、現場責任者とはまた別の精神的な支柱になっているといいます。

例えば、60代の整備士は、難易度の高い整備やトラブル発生時など、技術が活きる場面で中心的な存在となるのはもちろん、中村さんや責任者がつい強めに社員と接してしまった際の「とりなし」をしてくれることもあります。代表である中村さんに意見を出す時も、全員がいる場ではなく、あとから「社長はさっきこう仰いましたけど、こういうこともあるんではないでしょうか?」と、敬意や配慮を持ちながら必要なことをちゃんと言ってくれる、貴重な存在だそうです。

中村さんも60代社員は、体力面やスピード感では若い社員にかなわないと述べており、60代の整備士活用に課題がないわけではありません。しかし、そうした部分があっても「60代の力は絶対に必要」と、中村さんは断言しました。

「困ったことがあった時、お父さんに相談するような感じなんですよ」

中村さんは、若い整備士が60代の整備士に頼る風景を、微笑みながらそのように語りました。

社員がスキルアップするためにも人がもっと必要

 株式会社ウィルの整備工場の様子
シニアジョブが当時65歳の自動車整備士・Iさんをご紹介した時点では、株式会社ウィルの拠点は小田原鴨宮本店を中心に3店舗、そのうち整備設備を持つ拠点は2店舗でした。しかし、2022年3月、新たに海老名座間店がオープン。海老名座間店も整備設備を持つため、さらに自動車整備士の人材需要は高くなっているそうです。

少子高齢化に輪をかけて、自動車整備士を目指す若者が減少している整備士不足だけが、ウィルの旺盛な人材需要のベースではないようです。

ウィルが営む中古車販売事業は近年、新車ディーラーや大手中古車専門店の攻勢が激しくなっていますが、ウィルでは車の購入顧客へのアフターサービスを強化する戦略に活路を見出しているそうです。つまり、中古車が売れれば売れるほど、アフターサービスとして整備の仕事も増えることになり、そういった意味でも会社の規模拡大に併せてますます整備士の採用が必要になっていくと中村さんは語ります。

業界全体における整備士の待遇の問題や、外国人の受け入れ問題など、ウィルのみならず業界の様々な課題にも目を向けている中村さんですが、特定整備制度のスタートや電気自動車の普及など今後の業界の変化にどう対応していくかについても考えを巡らせていました。

現在の体制では日常業務を回すことで手一杯。新しい知識を身につけ、新しい機材に習熟し、スキルアップしていくための時間、教育のための時間が足りていないといいます。こうした「次の時代」に対応するための時間を確保する意味でも、もっと人材を雇用しなければないと、中村さんは力を込めて語ってくださいました。

50代でご自身が経営していた整備工場を閉じ、入社した整備士の方や、シニアジョブからご紹介した60代の整備士の方との出会いについて中村さんに聞くと、「本当に感謝していますね。本当に人に恵まれたと思います」と感慨深げに、何度も感謝の言葉を口にされていたのが印象的でした。

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