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国税庁定年退職後、会計事務所に再就職した方へのインタビュー

シニアタイムズ編集部 【編集部メンバー】

国税庁を定年退職後、会計事務所に派遣で入り、正社員になった永澤さんと、柔軟な人材活用を行う金井会計の金井広税理士にインタビューしました。

目次

国税庁を退官すると、23年以上勤めた場合には税理士試験が免除され、登録を済ませるだけで税理士として活躍することができます。

以前はこうした税務署等で定年まで勤めた国税庁OBの方が、定年後に自身で会計事務所を立ち上げることが多かったのですが、近年では自身で独立するのではなく、既存の会計事務所に再就職するケースが増えています。

今回お話を伺った永澤誠一さん(取材当時63歳)もその一人。
国税庁を定年退職後、かつての管轄区域で慣れ親しんだ地域にある、株式会社金井会計に再就職し、税理士補助として活躍しています。
永澤さんは、最初は派遣社員として入職、すぐにその実力を認められ、正社員となりました。

そして永澤さんを評価し、正社員へと転換した、株式会社金井会計の代表取締役であり、税理士の金井広さんは、シニアだからといって差別することなく、永澤さん以外にも60代、70代の社員を複数採用しています。
しかも、金井さんは、シニアを特別採用しようとしているわけではないと言います。

今回はそんな国税庁OBの永澤さんの再就職と、別け隔てなく来る者拒まずの金井さんの採用方針・人材活用方針について伺っていきます。


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お話を聞いた方1・永澤誠一さん


取材当時63歳。2017年に国税庁を定年退職。
その後、1社を経て会計事務所勤務を希望し、株式会社金井会計(当時は金井会計事務所)に入職。
当初は派遣社員として入職したが、能力と人柄が高い評価を得てすぐに正社員に。
今後の活躍も期待される、温和で知識豊富な方です。

お話を聞いた方2・金井広さん


株式会社金井会計 代表取締役/金井広税理士事務所 税理士。
大学院修了後、他の会計事務所を経て、ご尊父の会計事務所を引き継ぎ、令和2年に株式会社設立。
通常の税理士業務のみならず、様々な士業との連携、資金繰り、保険等、様々な相談に対応。
会社では年齢・性別・立場にこだわらない柔軟な採用・労働環境整備を展開。

お話を聞いた方3・小島哲男さん


取材当時74歳(取材から1ヶ月半後に75歳)。
シニアジョブからご紹介した方ではないですが、親族から確定申告の時期の忙しさを聞き、60代の時に金井会計に入社。繁忙期の確定申告業務支援・経理業務支援を担当。
ご自身のキャリアはシステム開発会社が中心で、ご自身で会社を経営されていたことも。
現在も金井会計で働く他に企業運営指導などをされています。

お話を聞いた方4・若山寿美子さん


取材当時63歳。シニアジョブからご紹介した方ではないですが、以前の勤務先がコロナ禍で閉じ、柔軟な働き方ができ通勤距離が短くて済む金井会計に転職。
シニアでも成長を見守ってもらえ、期待もされる職場環境にとても満足し、さらなる成長を目指して努力を続けていらっしゃいます。

国税庁OBが派遣で会計事務所へ、能力を評価され正社員転換


永澤誠一さんは当初、人材紹介ではなく人材派遣の形で仕事が決まりました。
入職後すぐに直接雇用に切り替えたいという打診があり、数ヶ月の短い派遣期間を経て直接雇用に切り替わりました。

「私は働けさえすれば」と謙虚な永澤さんですが、もちろん派遣社員という勤務形態は初めての経験。
「同じところで長く働けるならば安心」と、永澤さんにとっても満足できる結果だったようです。

永澤さんは2017年に国税局を定年退職。
その後、会計業界とは異なる仕事をされていましたが、やはり会計事務所の仕事がしたいと転職を考え、2020年から転職活動を始めたそうです。
永澤さんも国税局OBで税理士試験が免除されるため、自身で事務所を起こすことも考えたそうですが、国税局の経験はあっても会計事務所の経験があるわけではないからと、まずは会計事務所への転職を目指したのだそう。

もちろん人材紹介会社や求人サイトを使うのも初めてだった永澤さん。
「会計事務所 国税OB 退職」といったキーワードでインターネットでの検索をかけたところ、

「シニアジョブさんの結構わかりやすいホームページが出てきたんですよ。で、登録も簡単だったんで、物は試しってことで登録して、何かあったら連絡があるかなくらいに考えていたところ、いきなりすぐ電話があり、おっ、対応が早いな、と思いました。他は登録しなかったんですが、人に聞いたらそんなに早くないよと言うので」

このように初めての人材会社登録が意外にもスムーズに進んだという永澤さんを担当したシニアジョブの人材コーディネーターは、代表取締役の中島康恵でした。
代表自身が担当することにも当惑しつつ、自宅から遠くなく、国税局・税務署時代に担当したエリアの仕事を進められ、良い条件だと考え、永澤さんは気もちを固めたのでした。

さらに知識を身に着け、トップと同じ仕事をしたい

永澤さんにとって、トップの金井さんの印象は、「普通の税理士のイメージとは違う、活発でエネルギッシュで行動的で、こういった先生は初めて」と好印象。
入職前に事務所の近くにいる永澤さんの国税局のかつての上司も「金井先生いい人だよ」と太鼓判。
永澤さんは安心して勤務を開始されたとのことでした。

事務所のお仕事は、金井さんが主に外出を含めた「外」でのお仕事を担当し、永澤さんは現時点では、会計データの集計・チェックや、法人・個人の確定申告の対応など、ほとんどが内勤での業務をしているそうです。

しかし、今後は金井さんと同じ業務も担当していきたいという永澤さん。
金井さんもそれを希望し、永澤さんの税理士登録も背中を押してくれているようです。
さらに、金井さんが税理士の仕事と併せて、顧客のライフプランの充実のために提供している生命保険の案内のために、生命保険販売の資格についてもチャレンジしたいと永澤さんは語っていました。

その他にも、永澤さんは税法の知識、特に相続税に関する知識をさらに磨いていきたいと積極的な意欲を語っていらっしゃいました。
国税庁は、研修は充実しているものの、会計の現場で使える税法の知識はそれほどでもない人が多いと言います。
金井会計では相続税の仕事が多く、永澤さんは、金井さんの働き方を見ていて「相続税が面白そう、自分も携わってみたい」と思ったのだそうです。

年下でも尊敬できる金井さんにめぐりあい、ご自身も積極的に新しいチャレンジも進めている永澤さん。
定年後の再就職を経験し、「“歳”じゃないですよね、今はもう。60歳は若いですよね。体力ややる気の続く限りは働いているほうがいいかなぁと思います」と語ってくれましたが、一方で今年5月、急な神経痛に襲われ、幸い一過性ですぐに何事もなかったように治ったといいますが、改めてご自身が年齢を重ねたことを実感したそうです。

定年前には地域のマラソン大会などに出て、体力には自信があったという永澤さんですが、「60過ぎるとやっぱりあれなんだなぁ、定年ってのはそういうことにあるんだなぁ、と思いました」と、元気であってもこれまで以上に健康に注意が必要だというエピソードを振り返っていらっしゃいました。

永澤さんの国税庁の先輩などでは、70歳まで現役働いている人は多くないといいますが、ご自身は可能な限り働き続けたいと考えていらっしゃいます。
最初、派遣社員として勤めたのちに正社員に切り替わったことについても、「働きさえできればそれでいい」と繰り返し仰っていましたが、それでも「同じところで長く勤められることで、(税理士登録や保険の資格取得など)今後の目標につながった」とも、仰っていました。

70代が複数いても「特別シニアを採用しているわけじゃない」


永澤さんが「パワフル」と感嘆し、私たちが取材に行った時にも来客の相談に乗っていらっしゃり、その後取材に答えると、慌ただしく外出された金井広さん。
経営者として、そして税理士として、非常に精力的に活動されている様子でしたが、金井さんは雇用する経営者の立場として、シニアの方の採用をどのように考えていらっしゃるのでしょうか?

金井さんは「特別シニアとかそういうつもりはまったく(ない)」と言います。これはどういうことなのでしょう?

実は株式会社金井会計でシニアを採用するのは、永澤さんが初めてではありません。
金井会計では他にも70代の方や60代の方が活躍しています。そしてその一方で、最年少の方は二十歳。20〜74歳まで、54歳の年齢幅でスタッフが活躍されています。

こうした幅広い年齢層も、特に狙って採用しているわけではないとのこと。若いとか年配とかそういうのは関係なく協力してもらえる人材を幅広く集めた結果、年齢層も幅広くなったというのが真相だそうです。

シニアになると体力面・健康面なども気になるところですが、そこは金井さんも織り込み済み。
むしろ、「いつまでにやれとは言わない」「無理せず自分のペースでやってもらう」というのが金井会計のスタイルなのだそうです。
男女問わず、育児や家事、それぞれの事情がある中で、個人的にも急に用事が入ることもある、そうした場合は仕方ないと考え、自分の時間がある中で活躍してもらおうという社風になっているといいます。

金井さんのこうした「来る者拒まず」で自分にあった無理しない活躍を尊重する方針は、幅広い年齢層の活躍につながっているのはもちろん、縁故でたくさんの社員が集まる環境にもつながっています。
上述の70代の方や、二十歳の方も縁故採用で、金井さんが以前勤めていた会計事務所の先輩社員や、社員やお客様のご家族といった様子です。

金井会計はこのように社員自身の事情に合わせた柔軟なお仕事環境を整えることで、年齢や立場、状況に関係なく、誰でも活躍できる企業風土となっています。
そのため、国税庁を定年退職した永澤さんについても、年齢ではなく経歴・スキルや人柄などから活躍が期待され、最初は派遣社員として入職し、短期間で正社員に切り替わりました。
シニアにとってもチャンスのある職場と言えますが、それはシニアだけに開かれているのではなく、老若男女どんな方にもチャンスがあるのです。

テレワークの環境も、コロナ流行前から、例えば日中に家事や育児で忙しい方が、夜に自宅で仕事をするといった柔軟な働き方を実現するために、仕組みと機材の準備を進めていました。
コロナ前は結局出社する社員がほとんどだったものの、こうした準備によってコロナ流行後は迅速にテレワークが実践できたそうです。

トップである自分と同じレベルの人材を求めていた

永澤さんの採用の決め手は、やはり元国税庁職員として、税法に関する十分な知識を持っている部分だといいます。

「私が外出して事務所にいないことがほとんどなので、税法などの専門知識は自分で調べると言っても、(調べた内容が)合っているかどうかさえわからない時代ですから。そういう意味では、今は永澤さんがずっと事務所にいてくれるので、(他の社員は永澤さんに)わからないことを聞きに行くことができます」

「対応についても、昔は税務署の職員に横柄な方もいましたが、今は永澤さんのように温和な方がすごく多くて、永澤さん自身もすごく温和なのはもちろん、いろいろな経験をされ、能力についても高いスキルをお持ちです」

金井さんがこう語るように、永澤さんは持っている高い専門知識だけでなく、その誠実な人柄も相まって、金井会計の中で頼られる存在として活躍しているようです。

永澤さんの知識レベルは、金井さんが求めていた「(金井さんと)同じレベルのその仕事をできる、判断ができる人」に該当するレベル。
金井さんにもし何かあった時、同じレベルの仕事を任せられる社員の確保は、事業と会社の継続のためにも急務でした。このレベルの会計人材を常々求めていた金井さんは、シニアジョブからお送りした永澤さんの略歴を記したメールを見て、「おお、これは是非」と思い、永澤さんの入職が決定しました。

74歳と63歳の職員が語る、シニアの働き方とは


金井会計には永澤さん以外にも、60歳以上の方が複数勤めていらっしゃいます。
その中で、74歳(取材当時)の小島さんと、63歳の若山さんにも話を伺いました。

小島さんはシステム開発企業を中心とした経歴をお持ちで、ご自身で代表として会社を経営したご経験や、その経験を活かして企業運営の指導も担当した経験があり、そうした管理や経営側の経験から、損益管理など財務経理業務についても一定以上の知識をお持ちで、現在は別の企業の運営指導を続ける傍ら、金井会計で経理業務や確定申告業務の支援をされています。

若山さんは過去に会計事務所に勤めた経験があり、その経験を活かして金井会計で活躍されています。
若山さんにとって金井会計は「大事な自分の居場所」とのこと。
「この歳になると学びや成長も期待もされない、ペイもされない、それを期待されるというのはすごくありがたいこと」と、さらに成長したいと思える貴重な職場であり、それと同時に成長をあたたかく見守ってもらえる場所である金井会計が、本当に大事な居場所なっていると語っていらっしゃいました。

小島さんは、金井会計の社員の方のお身内で、確定申告の繁忙期の大変さを聞き、その期間の支援のために入社されたそうです。
一方、若山さんはそれまで勤めていたアパレルショップがコロナの流行によって閉店してしまい、年齢も考えて都内の職場ではなく近隣で探した結果、柔軟な働き方が可能な金井会計に入社し、週3日の勤務をされていらっしゃいます。

小島さんは取材後に75歳の誕生日が近づいているとのことでしたが、まだまだお元気でマルチなご活躍を続けていかれるそうです。
若山さんも70歳を超えても働き続けていきたいと語ってくださいました。
週5日の勤務では70歳までも働き続けるのが難しいかもしれないとのことですが、勤務日数を減らしたとしても働き続けていたと仰っていました。

若山さんは、60歳以上の転職・再就職を「単に仕事を探すのではなく、これからの生き方を考えること」とまとめてくださいました。
若山さん自身、今回の再就職の際、このように考え方の転換を迫られたのだそうです。
60歳以上は仕事100%じゃなくてもいい、ゴール(エンディング)を見据えての生き方へと転換していくタイミングだと若山さんは語っていらっしゃいました。

シニアを含め、地域の専門家がつながる会計事務所


さて、金井さんの期待に応え、永澤さんも国税庁OBは試験が免除され登録だけで済む税理士登録をする予定であり、さらに生命保険の販売に関する資格も取得して、金井さんと同じ仕事を目指すそうですが、金井さんは一般的な税理士の仕事のほかに、どのような仕事を手掛けているのでしょうか?

私たちが取材に訪れた時、会社設立の相談に乗っていた金井さんですが、それ以外にも融資を含めたお金に関する支援をしていく資金繰り支援を多数提供しているそうです。
一見、税理士とは関係ない仕事のようにも思えますが、金井さんは「税理士だからお金のことをよくわかっている」と言います。

税理士は、顧客の決算情報、つまり通帳そのものを見ているような特殊な立場なので、お金に関するアドバイスもやりやすい、もちろん、税務以外の専門家ではないものの、そうした背景から金井さんはお金や事業に関する相談に対して「そんなことわからない」とは、一切言わないようにはしているそうです。

そうした融資も含めたお金に関する相談を幅広く受け付ける金井さんですが、その考えは相談者の方のもしもの時にも及びます。
融資を受けた経営者に万が一のことがあった場合、会社には融資とその返済だけが残ってしまう。
それを防止するために生命保険についても提案できる体制を整えているのだとか。

「私は税理士ではあるけれども、税理士という資格を利用した、一営業マンというようなつもりです」

こう語る金井さんですが、こうした万が一の備えについても「実は我々が考えていかないといけない本業だと思っている」と、並々ならぬ顧客への思いやりを見せていらっしゃいました。

このように一般的な税理士という枠を超えて、幅広いお金に関する相談や支援を行う金井さんの取り組みは、決して一人で行っているのではなく、様々な専門家と連携しています。

保険の営業担当、司法書士、社会保険労務士、中小企業診断士、弁護士、さらに今回入社した永澤さん以外にも外部の税務署OBの先生など、スペシャリストのチームが金井さんを中心に構成されています。
だからこそ社内にも、年齢や個人の状況に関わらず、スキルと人間性重視で採用する社風があるのでしょう。

税金だけでなく、お金について様々な相談ができるのは、相談する側からしたら本当にありがたいですよね、と尋ねると、金井さんは「うんうん、よくワンストップって言われてますけど、そうあればいいなとは、思っていますね」と微笑んでいました。

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この記事の監修者

シニアタイムズ編集部 【編集部メンバー】

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