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独身の老後資金はいくら必要?おひとりさまの住まいの選び方も解説

高橋正美 【ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)】

高齢の独身者が増えています。老後生活を送るにあたって、独身の場合はどれだけの資金が必要なのでしょうか?持ち家、老人ホーム、サ高住、公営住宅など、住まいの選び方についても解説します。

目次

男性の4人に1人、女性の7人に1人が生涯独身

シニア特化型の結婚相談所やアプリも増加。シニア婚活の最新事情とは?という記事でもお伝えしたように、高齢独身者の割合は増加傾向にあります。

国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集(※)によると、50歳の時点で一度も結婚をしたことがない割合を表す「生涯未婚率」は、2015年時点で男性は23.37%、女性は14.06%となりました。1980年の生涯未婚率と比較すると、男性は約10倍、女性は約3倍にも増加しているのです。ざっと計算すると、男性は4人に1人が、女性は7人に1人が、生涯を独身で過ごすということになります。

今や独身のまま老後を迎える、おひとりさま世帯の存在は珍しくなくなっているということです。
そこで、独身の人に向けて、老後生活を明るく楽しく過ごす方法をお伝えします。

国立社会保障・人口問題研究所ホームページ 人口統計資料集2021年版(表6-23 性別,50歳時の未婚割合,有配偶割合,死別割合および離別割合:1920~2015年)

独身者が安心して老後生活を送るための「お金」はどれくらい必要か

独身で老後生活を送る上で、お金について考えることはとても重要です。
たとえ独身でも、兄弟や親戚、お子さんなどの頼れる身内がいるのであれば、お金の心配は軽減できますが、そのような身内がいないのであれば、楽しい老後生活のためにも、しっかりお金をためておきましょう。

独身者に必要な老後資金は約300〜500万円(住宅費用を除く)

養ってくれる子供や家族がいない場合、老後の生活費は全て自分自身で賄わなくてはいけません。
総務省統計局が2020年に調査した65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の平均収支データ(※1)を確認すると、下記のような収支になることがわかりました。

  • 実収入平均:136,964円
  • 可処分所得(手取り収入):125,423円
  • 消費支出:133,146円
  • 平均消費性向:106.2%(毎月7,723円不足)


65歳以上で単身無職世帯の収入の内訳は、年金受給がほとんどで、毎月7,723円が不足している状態だということがわかります。

なお、消費支出のうち、住居にかかる費用の月額平均は12,392円です。単身世帯のうち、勤労者世帯(平均年齢42.9歳)の住居費用の月額平均は20,950円ですので、年配になると住居費がぐっと下がっていることがわかります。これは年齢が上がるとともに、住宅購入や相続などの機会が増え、持ち家率が上昇することと関係しています。

不動産情報サービスのアットホーム株式会社が、新築一戸建てを購入して30年以上住んでいる人398名を対象に調査をしたところ、平均築年数36.8年で修繕費の平均総額は532.1万円だったことがわかりました。
つまり持ち家の場合、修繕費を月額で1万2,049円支払う計算になります(※2)。

以上のことから、老後は自身の持ち家などの住環境が整った状況で、余生を過ごすあいだは毎月7,723円の不足分を補い続けることが望まれます。
厚生労働省が発表した2020(令和2)年の簡易生命表(平均余命)(※3)によると、男性の平均寿命は81.64歳、女性の平均寿命は87.74歳でした。
定年退職をした65歳から、平均的な寿命である85歳まで生活をするならば、毎月約8,000円の不足分を20年間、貯金の中から捻出しなければなりません。
そこで寿命を85歳、90歳、100歳で設定した場合、老後の資金がどれだけ必要かを、シミュレーションしてみます。

<65歳独身者の老後に必要な資金>

  • 85歳まで生活する場合、(8,000円×12か月)×20年=192万円
  • 90歳まで生活する場合、240万円
  • 100歳まで生活する場合、336万円


ざっと計算すると、これくらいの資金が必要になります。何かトラブルが起こった場合は、さらに費用がかかってしまいますので、独身の人が安心して老後を過ごすには、300万円から500万円ほど貯蓄しておくことをおすすめします

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※1:家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年)Ⅱ総世帯及び単身世帯の家計収支
※2:2021年“新築一戸建て購入後30年以上住んでいる人に聞く「一戸建て修繕の実態」調査”
※3:令和2年簡易生命表の概況 - 厚生労働省

老後の住まいの準備と500万円の貯金を同時に進行しよう

老後の資金をしっかりと貯めるには、早めの準備が必要です。
たとえば40歳から老後を見据え、定年退職時の65歳までに500万円を目標に貯金するとなると、年間20万円、月に直すと1万6,666円を貯金していく計算になります。

さらに老後に住む家(持ち家、老人ホーム、サ高住など)の資金も貯めておく必要があります。十分な収入がなく、給料がなかなか上がらない中で、住宅資金以外に月1万6,666円を貯めるのは大変です。老後の充実のためには、今の生活を見直してムダを切り詰め、貯蓄最優先の生活設計で現役時代を過ごす覚悟が必要となるでしょう。

なお、老後の住まいの選択方法については、のちほどまとめてご説明します。

投資の勉強をして、老後資金を堅実に増やす準備をしておく

貯金だけで老後資金を確保するのは簡単ではありません。
なるべく負担を減らして老後資金の貯金目標を達成するためには、資産運用をして効率よくお金を増やす方法をおすすめします。

超低金利が長く続く日本では、若い世代を中心に資産を増やすという感覚があまり身についていないのが現実です。資産運用に伴うリスクもゼロではありませんので、とくに慎重派の人は投資や運用に気後れするかもしれません。
しかし、投資先をよく検討し、安全性を確保して運用をすれば、預金金利よりもずっと高い利回りで資金を増やすことが可能なのです。

単に貯めこむだけではなく、積極的に運用していくことが、豊かな独身の老後生活を切り開きます。老後資金の準備のためにも、今から投資の勉強をしていくことをおすすめします。まだ投資をしたことがない人は、比較的低リスクな「つみたてNISA」(日本版個人貯蓄口座)や「iDeCo」(個人型確定拠出年金)などから始めてみてはいかがでしょうか。

つみたてNISAとiDeCoについては、下記の記事で解説していますので、参考にしてください。
つみたてNISAとiDeCoの違いとは?2022年のiDeCo制度改正も解説します

持ち家・有料老人ホーム・サ高住・公営住宅などの住まいの選び方

老後をどこで過ごすのか、住まいの問題は生活に大きく影響します。
一般的な賃貸物件の場合ですと、独身の高齢者を敬遠する大家や不動産会社が多いため、潤沢な資産があっても住まい探しに困るケースが少なくありません。現役時代のうちに、老後を過ごす物件を手配しておくことをおすすめします。
それでは住居の選び方について、解説します。

持ち家の場合

老後の生活を一人暮らしでのんびりと過ごすことを希望するなら、持ち家を選択することになるでしょう。時代の流れとともに高齢者の独身世帯は増えています。介護士やヘルパーなどの力を借りながらでも、一人で快適な生活をおくることは可能です。
仕事に通う機会がないのであれば、多少交通の便が悪くても、閑静な環境にある不動産を探してみるのもいいかもしれません。

ただし、年配になると病院や介護施設などに通う機会が増えるため、そういった医療施設が近くにあるか、生活雑貨の買い物をする場所が近いか、といったことが重要になってきます。
また、車の運転免許証を高齢になっても維持できるかどうかも重要です。高齢者講習に落ちてしまえば、車が利用できなくなってしまうからです。交通の便は、高齢者になるほど無視できないものです。

老後になっていきなり住み慣れない場所に移り住むのは危険ですので、若いうちから住みたい場所を決めておき、地価や周辺環境、治安、交通の便などの状況をよく調べて検討しておきましょう。

有料老人ホーム・サ高住の場合

持病や障害などの関係で、一人で過ごすことに不安がある人は、介護付きの有料老人ホームや、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)への入所準備を早めに進めておいてください。
自宅を手放すことで老人ホームやサ高住に入居できるかを確認するため、自宅の売却価格がどれくらいになるかを把握しておきましょう。
自分で手続きや契約をできる元気なうちに準備しておけば、いざ老後になっても慌てる心配はありません。
資金さえ準備できれば、独身で入所できる施設はたくさんあります。

<有料老人ホーム・サ高住探しの参考サイト>
理想の介護施設・有料老人ホームが見つかる | ケアスル 介護

公営住宅や家賃減免制度を利用する場合

自治体によっては、独身の高齢者向けに公営住宅などの住まいの斡旋を行っているところもあります。高齢の独身者でも暮らしやすい自治体へ思い切って引越すのもいいでしょう。

また、少ない年金で暮らすには?年金生活の節約術と老後の貯金を減らさない方法でもご紹介しましたが、県営や市営住宅に住み、定年退職などにより世帯収入が減少した際は、家賃の減免申請ができる可能性があります。
老後の住まいに関わる資金を用意できなかった場合は、公営住宅に住むことを検討してみてください。

独身だからこそ備えておきたいこと

独身だからこそ老後に備えておきたいこと
お金や住まいの問題以外にも、独身の老後に備えて準備しておきたいことはたくさんあります。
現役時代から早めに準備しておくことで、独身でも楽しい老後を過ごせます。

身元保証人をどうするのか

独身の老後生活で最大の壁となるのが身元保証の問題です。
家族持ちならば、妻や子に身元保証人を引き受けてもらえますが、独身の人が身元保証人を探すのは簡単ではありません。
親戚や兄弟がいるのなら、早めに身元保証人を引き受けてもらえるよう頼みましょう。

身元保証が必要な契約や作業を、現役のうちに早めに済ますのもひとつの解決策です。
「必要な口座などは現役のうちに開設しておく」
「保険契約を見直しておく」
といったように、身元保証が難しい高齢になる前に、必要なことを済ませておけば安心です。

民事信託(家族信託)や成年後見制度を利用する

判断能力が低下したときに備えて、民事信託(家族信託)や成年後見制度の利用を検討する必要があります。
民事信託は、主に家族や親族間で委託者と受託者を決め、信託法に基づいて締結する信託契約です。
成年後見制度のうち「任意後見」は、第三者との間に具体的な支援内容を示した契約を結ぶ制度のことです。司法書士や弁護士などの専門家に、身元保証に近い内容を引き受けてもらえますが、報酬が発生するため、費用がかかります。

独身者で子供がいなくても親族などがいる場合は民事信託を、いない場合は成年後見制度の任意後見を検討してみてください。
入所したい介護施設や、財産の管理方法などについて、元気なうちに任意後見契約を結んでおけば、体調を崩したり認知症になったりしても、不利な扱いを受けることは避けられます。

なお、成年後見制度のうち「法定後見」は家庭裁判所への申立手続きが必要です。法定後見人は家庭裁判所によって選任されます。
成年後見制度の法定後見、任意後見については、下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
成年後見制度とは?法定後見と任意後見の違いについて解説

<家族信託の詳細がわかる外部参考記事>
家族信託とは?わかりやすくメリット・デメリットを説明します|【公式】認知症対策の家族信託は「スマート家族信託」

独身でも明るい老後を送るには

独身でも老後の生活を楽しむ男性たち
独身でも明るい老後を送るには何が必要なのでしょうか。
楽しい老後と言っても人によってそれぞれイメージは異なります。
友人と一緒に時間を過ごしたいのか、趣味に没頭したいのか、ボランティア活動でやりがいを感じたいのか。
自分自身が思い描く幸福な生活を送るために必要な準備をしておきましょう。

健康寿命の延伸を目指し、運動で体を鍛えて楽しい老後生活を送ろう

明るく楽しい独身の老後生活をおくるのに欠かせないのが体力です。若いうちは体力に自信があっても、40歳を超えると急速に衰えてくるものです。そこで重要なのが、運動習慣を身につけることです。

厚生労働省では、国民の健康増進を目指し「健康日本21」という方針を設定しているのをご存知でしょうか。
健康日本21の調査資料の中には「平均寿命と健康寿命の差」を示したグラフが存在します。健康寿命とは、日常生活に制限のない期間を示す年齢です。

平均寿命と健康寿命の差のグラフ
出典:平均寿命は厚生労働省「平成22年完全生命表」、健康寿命は厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」より(健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料 図1 平均寿命と健康寿命の差を参考)

2010(平成22)年時点の平均寿命は、男性では79.55歳、女性では86.30歳となり、一方の健康寿命は、男性が70.42歳、女性は73.62歳となります。
つまり日常生活に支障をきたす、健康ではない期間が、男性の場合は9.13年、女性の場合は12.68年にもおよぶということです。

そこで、いつまでも健康で快適に過ごすためには、体が十分動くうちから筋力トレーニングや有酸素運動などに取り組み、健康寿命の延伸に励むことをおすすめします。
ジムへ通うのもいいですし、自宅でできる筋トレもおすすめです。通勤時に意識して多く歩くだけでも、体力づくりには効果的です。

大切なのは無理せず続けて行うことで、一時的なトレーニングに意味はありません。運動することが毎日の習慣となるように、無理なくできるメニューに取り組んでください。

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趣味を持つ

老後の独身生活をソロキャンプで楽しむシニア男性
楽しい時間を過ごすためにも、老後に楽しめる趣味を探しましょう。
スポーツ系の趣味は体力づくりにも効果がありますし、カメラや絵画、囲碁・将棋などの手先や頭を使う趣味は、認知症予防にも効果的です。

読書や音楽鑑賞などの自宅でも楽しめる趣味ならば、外出が難しくなってからでも楽しめます。カラオケは、同好の士を探すのにピッタリです。
アウトドアが好きな人は、キャンプや登山などもおすすめです。近頃のキャンプ場では、シニアのソロキャンパーの姿を見かけることも珍しくありません。自然の中で何もせず、ただ焚き火を眺めているだけでも楽しいものです。

特定の趣味がない人は、自分がどんな時間を楽しいと感じるのかを知ることから始めましょう。
誰かと一緒にいる時間が楽しいのか、一人で何かに没頭している時間が幸福なのか、知識が満たされることに充実感を覚えるのか、など、自分にとっての幸福はなにかを考えることが、一生続けられる趣味を見つける手がかりとなります。

婚活を検討してみる

気の合う友人と話すのが楽しかったり、誰かといるのが苦ではなかったりするのならば、婚活をして素敵な伴侶を探してみるのもおすすめです。
家計を支える人が増えれば、老後生活も豊かになり、楽しい出来事を二人で分かち合う喜びも味わえます。

近年ではシニアの婚活も珍しくなくなっています。スマホを使えるのであれば、婚活アプリなどを試してみてもいいでしょう。
下記の記事ではシニアの婚活について解説していますので、参考にしてください。


老後を楽しく過ごすために、しっかり準備をしよう

老後の幸せの形は人それぞれです。独身でも老後を楽しく過ごしている人はたくさんいますし、家族に囲まれながら孤独を感じている人も中にはいます。
独身の老後を楽しく過ごすためにも、体力や時間に余裕のある若いうちから早めに準備をしましょう。

この記事の監修者

高橋正美 【ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)】

日本FP協会所属。日本FP協会2019年「くらしとお金の相談室」相談員。某保険会社のお客様窓口で、保全業務のほか、資産活用、相続対策の相談などを16年間行い独立。相続開始後の手続き支援なども行う。 健康管理士として、お客様のお金に関する相談以外に、健康に関するアドバイスも実施。

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