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女性が60歳で定年退職したら?健康保険・失業給付の手続きを解説

谷口芳子 【社会保険労務士】

女性が60歳で定年退職したら、どのような手続きが必要になるでしょうか?主要な手続きをリストアップして、社会保険労務士が解説します。

目次

女性が60歳で定年退職をしたら、やらなければいけないことがたくさんあります。
そこで、定年退職するときににやらなければならないことを解説します。

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女性が退職した後に行わなければならない手続きとは

定年退職後に必ず済ませておかなければならないことは「健康保険の変更手続き」です。

会社を退職すると、勤務先で加入していた健康保険の「被保険者資格」がなくなりますので、別の健康保険に切り替える必要があります。
退職後に再就職を考えている人でも、次の職場に入社するまでに空白期間がある場合は、切り替えの手続きが必要です。

退職後はどの健康保険に加入すべき?

退職後に切り替える健康保険は、おもに2種類あります。1つは「国民健康保険」、もう1つは「任意継続被保険者制度」です。
 
定年退職後の年収が180万円未満になるなど、収入要件に該当する場合は、家族(三親等以内の親族)の健康保険に被扶養者として加入することも選べます。
家族の扶養に入る場合は、下記の記事の「2.被扶養者として家族の健康保険に加入する」という項目を参考にしてください。
定年退職の前後にやっておくべきこと特集 - 退職金・年金・健康保険・失業保険の手続き

健康保険の変更にはどんな書類が必要?

それでは「国民健康保険」を選ぶ場合と、「任意継続被保険者制度」を選ぶ場合では、どのような書類が必要なのかをご説明します。

国民健康保険

企業を退職して再就職をしない場合は、国民健康保険に切り替えるのが一般的です。
国民健康保険は、自治体が保険者(健康保険事業の運営主体)の保険ですが、保険料は前年の所得を元に計算されます。
 
ただし、その内容は全国一律ではなく自治体によって違いますので、自分が住民登録している(住んでいる)市町村の国民健康保険の窓口で確認することで分かります。

国民健康保険の加入に必要なもの

国民健康保険に切り替えるためには、以下のような書類が必要となります。

  • 市町村への届書
  • 健康保険資格喪失証明書


任意継続被保険者制度

退職後の健康保険を国民健康保険に切り替える以外には、「任意継続被保険者制度」を選択する方法もあります。
「任意継続被保険者制度」は、所属していた会社の健康保険を退職後も継続できる制度です。
ただし、事業主が保険料の半額を負担してくれることがなくなるため、退職前と比べると保険料は2倍になります。
 
任意継続をするには条件があります。退職前に被保険者の期間が2か月以上あることが前提です。
また、任意継続できるのは2年間だけです。
2年経ったら国民健康保険などに切り替える必要がありますので、ご注意ください。

<任意継続被保険者制度の加入に必要なもの>

  • 任意継続被保険者資格取得申出書
  • 被扶養者の収入を証明する書類など(証明が不要の場合もあります)
  • 退職日が確認できる書類


任意継続の保険料は毎月10日が納付期限ですが、初回の保険料を納める期日は、あらかじめ保険者から指定があります。
退職前に、人事労務の担当者などに手続きについて確認しておくとよいでしょう。

定年退職するまでに保険証の注意点を確認しよう

家族の扶養に入るのか、国民健康保険か、あるいは任意継続か。定年退職後に切り替える健康保険を検討しておくことで、退職後でもスムーズに健康保険の移行ができます。

ただし、どちらを活用するにしても、下記のような注意が必要です。

国民健康保険を選択する場合の注意点

健康保険を国民健康保険へ切り替える人は、退職した日の翌日から14日以内に市区町村の健康保険窓口で加入手続きをしてください。
14日を過ぎてしまっても手続きは可能ですが、退職日翌日までさかのぼって保険料を納める必要があります。

任意継続被保険者制度を選択する場合の注意点

任意継続を選ぶ場合、国民健康保険とは異なり、決められた期日を過ぎてしまうと申請を受け付けてくれないので要注意です。
期日は退職日翌日から20日以内です。国民健康保険よりは期間が長く設定されていますが、逃してしまうと、正当な理由がない限り申請ができなくなってしまいます。

定年退職後は気がゆるんで忘れがちになりますので、退職後は速やかに手続きを進めるようにしてください。


退職時に返還しなくてはならない健康保険証

健康保険証は退職日まで使えますが、退職後は直ちに返却しなくてはなりません。
退職日以降に返却を忘れて保険証を使ってしまうと、そのあとに加入した健康保険との差額精算など、面倒な手続きが必要となる場合があります。
そうならないためにも、前述した「国民健康保険」「任意継続被保険者制度」などへの切替は、早いほうがいいでしょう。

特に定年前後の女性は、生活環境の変化から心身ともに変調をきたしやすくなりますので、健康管理に十分配慮しつつ、手元に早く保険証が届くように、健康保険の切替を早めに行うのを心がけてください。

定年退職時に忘れずに受け取っておくべき各種書類

独身 女性 退職

定年退職時に健康保険証を返却しただけではまだ十分ではありません。
退職後の生活のために、必ず会社から受け取っておかなければならない書類がほかにもあるからです。

定年退職後に再就職する場合には必須のものばかりですので、下記の書類を忘れないようにしてください。

離職票

離職票は、失業給付を受給するために必要な書類です。
一般的には退職から2週間前後で会社から郵送されます。

雇用保険被保険者証(雇用保険証)

雇用保険被保険者証(雇用保険証)も、退職時に勤務先から戻してもらうようにしておきましょう。
雇用保険被保険者証は入社時に発行されますが、会社が保管していることもあります。
会社が保管している場合は紛失防止が目的ですが、本人が保持すべきものと認識していることは少ないようです。
 
ほかの会社に再就職する場合は、雇用保険がそのまま次の会社に引き継がれることになります。
再就職先の入社手続きにおいて、被保険者番号が必要となりますので、退職時には勤務先から雇用保険被保険者証を受け取ることを忘れないでください。

健康保険資格喪失証明書

定年退職後に健康保険を国民健康保険に切り替える場合は、健康保険資格喪失証明書が必須になりますので、勤務先に健康保険資格喪失証明書を必ず発行してもらいましょう。

源泉徴収票

源泉徴収票は年度の途中で再就職したときに、再就職先の会社に提出して年末調整をする際に必要な書類です。再就職が決まらない場合も、自ら確定申告をする際に必要なものです。

通常、源泉徴収票は12月の所得が確定した時点で受け取るものですが、年度の途中で退職する際にも発行されますので、きちんと受け取っておくようにしましょう。

年金手帳、もしくは基礎年金番号通知書

企業に年金手帳を預けている場合は、必ず返却してもらうようにしてください。

なお、2022年4月からは年金手帳が廃止され、「基礎年金番号通知書」に切り替わることになりました。年金手帳を紛失して、新たに基礎年金番号通知書を発行する必要がある人は、ねんきんダイヤルに問い合わせるか、近くの年金事務所などで再発行手続きを行ってください。

年金手帳の廃止と、基礎年金番号通知書の取り扱い方については、下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
基礎年金番号通知書とは?今ある年金手帳はどうすればいいかを社労士が解説

女性が退職したら、その後の年金はどうなる?

会社などに在職している人は、厚生年金に加入しており、給与から天引きされる厚生年金保険料に国民年金の保険料が含まれています。
定年退職後に再就職した場合には、要件を満たせば70歳になるまで厚生年金に加入することになります。

再就職をしなかった場合、老齢年金の受給権があれば、60歳以上の人は国民年金の保険料を納める必要はなくなります。老齢年金は、保険料を納付した期間などが10年以上あれば受け取れます。

ただし、老齢基礎年金(国民年金)を満額受給するためには、保険料を40年(480月)納める必要があり、480月に満たないときは、減額した年金額となります。
老齢基礎年金を満額で受給したい場合は、480月を上限として65歳まで保険料を納めることができます(国民年金の任意加入)。

国民年金の任意加入の手続きは、住所地の市区町村役場の窓口で行います。
60歳以上の任意加入の場合、保険料は基本的に口座振替で納付します。
手続きの際には、年金手帳など基礎年金番号がわかるものと合わせて、引き落とし先の口座番号がわかるものと、銀行の届出印が必要となります。
詳しくはお住まいの国民年金の窓口に確認してください。

失業給付は受けられるのか

定年退職をした人も、雇用保険の失業給付を受けることができます。
ただし、失業給付は再就職の意思がない人には支給されません。
次の仕事が決まるまで、生活の安定を図ることが目的の給付ですので、求職活動を行うなど、ハローワークで認定を受ける必要があります。
 
失業給付を受けるためには、以下の条件を満たしておかなければなりません。

  • 退職日以前の2年間に失業保険被保険者期間が12か月以上あること
  • 仕事を探していて、再就職先が見つからない
  • 再就職する能力を備えている


失業給付はどの程度の期間受けられるのか

失業給付の受給期間は、退職日の翌日から1年間が期限ですが、定年退職をしたあとに、すぐに再就職をせず、しばらくゆっくりしたいという人は、失業給付の受給期間を延長することもできます。
延長の申請は、退職日の翌日から2か月以内に手続きをする必要がありますので、早めにハローワークに行って手続きをしましょう。
 
失業給付の金額は、退職以前の6か月の給与の平均金額を元に計算され、約45~80%の金額が日割りで給付されます(基本手当日額)。給料が高い人は給付率が低くなり、逆に低い人は給付率が高くなります。

また、基本手当日額は、年齢によって上限と下限が決められています。
4週間に1回のペースで失業の認定を受けてから、28日分が指定口座に振り込まれることになります。
なお、基本手当の給付日数は、雇用保険の加入期間によって90日から150日までです。
最長の場合で、退職から1年以内に150日分の基本手当を受けることになります。
65歳未満で年金を受給する場合は、年金と失業給付を同時に受けることはできませんので、注意が必要です。

失業給付の注意事項

再就職の意欲があれば失業給付を受けられますが、注意しなくてはならないポイントもあります。
給付金を1度受けると、雇用保険の被保険者期間がリセットされてしまうことです。
 
たとえば勤続20年で定年退職して失業給付を受けたら、勤続20年の被保険者期間はリセットされることになります。
失業給付が適用されるためには、退職前2年間で雇用保険の被保険者期間が12か月以上あることが条件ですが、失業給付を受けたあと、再就職して1年以内に辞めたときには、被保険者期間が12か月未満となってしまいます。
 
このように、1度失業給付を受けると、それまでの雇用保険の加入期間が白紙になってしまうため、再就職しても1年以内に辞めてしまうと、次は失業給付を申請することができないのです。
この点を理解して、長く働くことができる再就職先を探すことが重要です。

女性は定年退職後の老後をどのように生きていくべきか


女性が60歳で定年退職をしたときに必要な健康保険や、年金関連の手続きについてご説明してきました。
近年では、65歳定年制も本格的になりつつあります。定年を過ぎても、今までどおり活躍できる機会も多くなるはずです。
60歳定年でいったん退職をしたとしても、社会貢献なども視野に入れ、定年後の準備をしていくことが大切です。
 
60歳以降の女性には、下記のような生き方が考えられます。

  • 勤務先に再雇用され、嘱託社員などとして働く
  • 再就職(転職)をして、フルタイム・パートタイム・アルバイトなどとして働く
  • 雇用形態にとらわれず、社会参加のつもりで働く
  • 老後の資金に心配がない場合は、地域の活動や趣味のグループなどへ積極的に参加する

 
いずれの場合でも、退職前の準備は重要ですので、今回の記事を参考にしてみてください。

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この記事の監修者

谷口芳子 【社会保険労務士】

シニア社労士事務所所長。NPO法人や税理士法人を経て現職。社会保険・雇用保険の各種届出、年末調整、労務相談、公正証書作成などの業務を担当。行政書士資格保有。

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