60歳からの働き方 シニアに人気の職種・仕事内容・業界をキャリアアドバイザーが解説
60歳からの働き方についてシニア人材専門のキャリアアドバイザーが解説。高齢者に人気の職種、仕事内容、業界について詳しくご紹介します。
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定年退職してもっと働きたくても、働き方がまったくわからない。アルバイトするしかないの?などと戸惑うシニアの方も珍しくありません。
今の60歳の方ですと、1つの企業に勤め続けることが普通だった世代かもしれません。しかし、今の時代は高齢者でも正社員として70歳まで働き続けたり、より良い条件を求めて転職したりすることも当たり前になりました。
そんな60歳以降の働き方の最新事情について、労働人口の変化や人気の職種・業界・雇用形態に至るまで、キャリアアドバイザーが徹底解説します。
60歳からの働き方の傾向
少子高齢化で働くシニアが増えていますが、実際どれくらい増えているのでしょうか。
また、働いているシニア、働きたいシニアは、どんな働き方を希望しているのでしょう。
まずは働くシニアがどのくらい増え、どんな意欲を持って、どんな就業形態を希望しているのか、その概要を見ていきましょう。
働くシニアの数は増えている
働くシニアは確実に増え続けています。
内閣府の「令和元年晩高齢社会白書」によると、2018(平成30)年の65歳以上の労働力人口は875万人に達し、労働力人口に占める65歳以上の割合は12.8%と、どちらも過去最高を記録しています。
65歳以上の労働人口は、この10年(2008〜2018年)で300万人以上増加し、同じく労働力人口に占める65歳以上の割合は4.3ポイントも増加しました。
一方で34歳以下の労働人口は、この10年で240万人も減少しており、若い人材がどんどん減る中で、シニアが増える少子高齢化が、労働人口の推移にも表れています。
日本のシニアの就労意欲は諸外国よりも圧倒的に高い
では、シニアの就労意欲はどのようになっているでしょうか?
各国の労働力人口比率を年代別に調べた国際労働機関ILOの「LABORSTA」の2002年のデータでは、60〜64歳の男性において、アメリカが57.6%、ドイツが34.0%のところ、日本は71.2%と圧倒的に高いことがわかっています。
同じく65歳以上の男性においても、アメリカが17.9%、ドイツが4,4%に対し、日本は31.1%と外国よりも圧倒的に多くの高齢者が働いていることがわかり、欧米よりも日本のシニアの就労意欲が高いと言えます。
また、内閣府が行った「平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果」では、就労希望年齢についての質問に対し、「働けるうちはいつまでも」と答えたシニアがもっとも高い28.9%に及ぶことがわかっています。「仕事をしたいとは思わない」との回答は10.6%にとどまりました。
シニアジョブエージェントが実施した独自調査でも「年齢に関係なくずっと」働きたい方が18.0%おり、多くの方が元気なうちは働いていたいと考えていることがわかります。
60歳以上のシニアはどんな雇用形態を希望している?
60歳以上のシニアの場合、アルバイトやパートなどの非正規雇用が多いイメージがあります。
特に定年後、または60歳以降、契約社員や嘱託で雇用の継続となる場合は多く、期間の定めのないいわゆる正社員は少ない印象ですが、実際はどうなのでしょうか?
内閣府の「令和元年晩高齢社会白書」によると、男女ともに60歳を境として、非正規雇用者が大きく増えることがわかっています。
平成30年のデータで、男性は55〜59歳の非正規雇用者率が12.0%であるものが、60〜64歳では50.5%に急増し、65歳以上は70%を越えます。
女性は59歳以下でも男性より非正規雇用者率が高めですが、同じく、55〜59歳では61.1%だった非正規雇用者率が60〜64歳では77.1%となり、60代後半、70代前半ともに80%を越えます。
しかし、逆に60代前半の男性では約半数が、女性でも2割以上は正社員として働いているということになります。
実際にシニアジョブエージェントが独自に調査した結果では、80.2%のシニア求職者が「週5日以上」働きたい、76.9%が「1日8時間」働きたいと、多くがフルタイムの勤務を希望しており、可能であれば定年前と変わらない雇用形態や働き方を選びたいと思っていることがわかっています。
シニアも若い世代と変わらず、正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト・パートなどの雇用形態がありますが、退職後は嘱託と呼ばれる非正規雇用の形態も増えます。
また、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となる中で、新たにフリーランスや起業、社会貢献活動などの新しい働き方も、今後、推進される見込みです。
雇用形態別シニアの仕事選びポイント
では、雇用形態別に、シニアの仕事選びのポイントをご紹介します。
正社員、派遣社員、アルバイト・パート、そして70歳就業法で新たに示された働き方を含めたその他の働き方に分けてポイントを解説いたします。
正社員を希望する60歳からの仕事選び
シニアが、正社員として転職・再就職する場合の仕事選びのポイントには、どんなものがあるのでしょうか?
- スキルと経験を活かして即戦力となる技術職などが人気
- 長く働き続ける覚悟とアピールが必要
- わからないことでも新たに学ぶ姿勢が必要
50代まで勤めてきた会社にそのまま勤め続けるのでなければ、即戦力となるスキルや経験を持ったシニアが求められます。
そのため、スキルと経験が評価されやすく、活かしやすい技術職などが比較的給与も高くなりやすく、シニアにも人気です。
期間の定めのない正社員では、企業側もなるべく長く勤めてくれる人材を探しているため、応募するシニアも企業が定める定年まで働く覚悟を持ち、その意思表示をすることで採用されやすくなります。
また、即戦力を求めているとはいえ、長めに働くことが前提の職場では、シニアといえどもわからないことを積極的に学ぶ姿勢や、成長し続ける姿勢が求められます。
自動車整備士や建設業の施工管理技士、製造業の技術者などは、シニアの正社員の募集が多い職種です。
派遣社員を希望する60歳からの仕事選び
シニアが派遣社員としての仕事選びを成功させるポイントは、以下になります。
- スキルが明確な技術職や、簡単でも責任感が問われる仕事が人気
- できること、できないことの具体的な整理が必要
- 派遣会社との信頼構築、信頼できる派遣会社選びが必要
派遣社員の場合は、高い技術力を発揮する仕事だけでなく、簡単な仕事内容のものもありますが、どちらの場合も、決められた内容や期間で確実に仕事を行う責任感が求められます。
正社員と違い、成長を求められることは少ないのですが、どんなことができて、できないこと何なのか、明確にしておかなければトラブルのもととなるため、経験スキルの整理が必要です。
派遣社員は実際に働く職場の会社ではなく、派遣会社の社員となるため、職場・仕事選びだけでなく、派遣会社との信頼関係を築けるか、信頼できる派遣会社であるかも、重要なポイントとなります。
建設業の施工管理技士や、医療事務、ベッドメークなどで派遣社員が活躍しており、正社員採用の道が拓ける場合もあります。
アルバイト・パートを希望する60歳からの仕事選び
アルバイトやパートの働き方をシニアが選ぶ場合は、どのような仕事選びのポイントがあるのでしょうか?
- 有資格者の補助業務や事務職などが人気
- 短期間、短時間など自分に合った働き方を選べる
- シニアの場合、専門スキルを持った人材もアルバイト・パートで活躍する場合があるので注意
有資格者の補助業務や、事務職などが、アルバイトやパートの中でも人気の仕事になります。
もちろんそれ以外にも、これまで学生などが就いていたアルバイトのなり手が不足しているため、様々な業界がアルバイト・パートを募集していますが、立ち仕事となる飲食業、小売業などは健康や体力にも左右され、募集側もシニアを採用したがらない場合があるため、注意が必要です。
短期間や短時間の勤務などの働き方を選ぶ場合、正社員で時短勤務を希望できるケースもありますが、新たに仕事選びをする場合は、アルバイトやパートの求人が有力になります。
また、シニアの場合、アルバイトやパートの雇用形態だからといって、必ずしも専門性が低く、給与も低い仕事とは限らないので注意が必要です。
中には税理士などの専門資格を活かして活躍するパートタイマーなどもおり、副業としてアルバイトやパートに就くシニアもいます。
税理士補助や医療事務などのアルバイト・パートに人気があります。
アルバイト・パートタイムの仕事の探し方については、下記の記事を参考にしてください。
中高年の短期・単発アルバイトには、どんなお仕事がある?
その他の働き方を希望する60歳からの仕事選び
新たなシニアの働き方である、フリーランスや起業、業務委託、社会貢献活動などには、どのような仕事選びの注意点があるのでしょうか?
- フリーランスは空き時間を活かした仕事から専門職までさまざま
- 起業には大きな労力とスキル、資金の問題などがあるので注意
- 業務委託を含め、従業員ではなくなって社会保障が弱くなるため注意
- 営業や経理など、専門業務以外の業務も一人でやる必要が生じるため注意
2020年3月31日に成立した、いわゆる70歳就業法では、65〜70歳までの就業機会確保として、フリーランス、起業、社会貢献活動など、これまでなかった働き方が示されたのですが、これについては7月1日現在、具体的なガイドラインなどがまだ示されていないため、国や企業がどのような対応を取るかがわかりません。
フリーランスについては、空き時間を活かした簡単な仕事から、専門技術が必要な仕事まで、専門性の幅が非常に広くなります。
フリーランスも含め、企業とは雇用ではなく、業務委託契約となるため、これまでの社会保険など従業員として企業や社会が守ってくれていた部分がなくなることには注意が必要です。
例えば、これまで技術職として経験がなくとも営業活動を自分でやらなければならなくなったり、同じく経理業務を自分でやらなければならなくなったりすることにも注意が必要です。
起業の場合はさらに、業務を行うだけではない資金や運営の苦労も生じます。
国の方針で推進されるものはまだこれからなのでわかりませんが、業務委託でのシニアの活躍には、税理士法人の仕事や、営業職などの仕事の例があります。
<フリーランス(個人事業主)に関連した記事>
業務委託・外注の年末調整と確定申告の方法は?定年退職後のシニア業務委託のお悩み解決!
<税理士に関連した記事>
60歳以上のシニアにお勧めのお仕事・職種
これまでシニアのお仕事のイメージは、「短時間で無理なく」や「趣味ややりたいことを仕事にする」というものでしたが、今では定年までの経験スキルを活かして、フルタイムで働く仕事が多くなっています。
専門の資格が必要なお仕事も多くありますが、専門資格のほうが経験スキルを正しく評価しやすいことがあるためです。
それでは、60歳以上のシニアにお勧めのお仕事を具体的に見ていきましょう。
なお、シニア女性の仕事の選び方については、下記の記事を参考にしてください。
50代女性の仕事探しのコツ「シニア歓迎」と「長く続けられるか」を重視しよう
以前からシニアが活躍していた施工管理技士
建設業の施工管理技士の仕事は、シニアに非常にお勧めの仕事の一つです。
資格ごとに専門分野が細かく分かれ、工事に必須の専門知識を必要とする仕事でありながら、人材不足が著しいことで、需要の高い状況が以前からずっと継続しているお仕事です。
そのため、業界全体がシニア採用に慣れており、求人数や待遇も高い状態となっていますし、入社後の配慮も十分な企業が多く求人を出しています。
法律上、作業員と施工管理技士が明確に区切られていることで、現場に出る仕事ではあるものの、比較的シニアにも負担の少ない仕事であるために人気もあります。
工事ごとに人材が必要になるために、就労形態が派遣社員であることも多く、また、企業によっては転勤がある場合もあります。
土木施工管理技士、建築施工管理技士、電気工事施工管理技士、管工事施工管理技士といった国家資格がありますが、内容によっては無資格で経験のある人材を募集しているケースもあります。
建設業では施工管理技士の他に、建築士やその他の資格、営業職などの募集がある場合もあります。
国税局OBから無資格まで活躍する税理士事務所のお仕事
税理士や税理士事務所の補助業務も、シニアに人気の仕事です。
税理士事務所の業務自体は企業の活動と連動して、大きな衰退はなく、忙しい状況が続いています。
しかし一方で、企業の数が急激に増えているわけではなく、新たに税理士事務所を開いても営業に苦労する状況で、新規に開業するのではなく、既存の税理士事務所への就職が人気となっています。
国税局を退官した職員は税理士試験の科目が免除になりますが、上記のように開業ではなく就職の道を選ぶ方が増えています。
税理士の有資格者だけではなく、企業の経理・会計業務経験者や、財務経験者などが補助業務に就くケースも多く、女性を含めてシニアに人気のお仕事です。
税理士だけではなく、公認会計士、弁護士といった士業全体で、シニアへのニーズが高まっています。
下記はシニアジョブエージェントを活用して、実際に会計事務所へ再就職した、元国税庁の方のインタビュー記事です。
再就職の参考にしてください。
国税庁定年退職後、会計事務所に再就職した方へのインタビュー
自動車整備士、製造業、医療事務、ベッドメークなどもシニアに人気
その他、自動車整備士、製造業の技術者、医療事務、ベッドメークなどの仕事も、シニアに人気が高く、転職・再就職の実績の多いお仕事となります。
いずれも、全年齢層の人材不足が激しく、特に若い人材が不足しているお仕事です。
資格が必要なお仕事、不要なお仕事と様々ありますが、シニアの転職・再就職では、いずれも経験が重視されます。
医師や歯科医師、薬剤師、保育士、調理師などの求人が出る場合もあります。
この記事の監修者
松澤裕介 【キャリアアドバイザー】
キャリアアドバイザーとして、転職相談3,000名以上、紹介企業数10,000社以上に対応。年間1,000名以上の履歴書、職務経歴書を作成。主に医療・介護業界の人材紹介を担当。「シニア人材の転職市場・転職の注意点」などのテーマで記事やコラムを監修。