医療費控除のやり方や対象となる費用とは?会社員でも確定申告が必要!
医療費控除は確定申告が必要! セルフメディケーション税制って?
医療費控除とは、1年間に支払った医療費や薬代の一部が所得から控除される制度。利用するためには確定申告が必要です。この記事では、医療費控除のやり方や対象になる費用などを解説します。
- 目次
- 医療費控除とは
- 医療費控除とは所得控除制度の1つ
- 医療費控除の適用要件
- 医療費控除の申告期間は翌年の2月16日〜3月15日まで
- 医療費控除の対象となる費用
- 医療機関での診療や治療に関する費用
- 歯の治療に関する費用
- 出産に関する費用
- 医薬品や医療用器具に関する費用
- 医療費控除の対象にならない費用
- 控除額の計算方法
- 特定の医薬品購入費用はセルフメディケーション税制が適用される
- セルフメディケーション税制とは
- セルフメディケーション税制の対象医薬品
- セルフメディケーション税制の注意点
- 医療費控除のやり方
- 医療費控除の対象となる年間医療費を計算する
- 医療費控除の明細書と確定申告書を作成する
- 確定申告をする
- 医療費控除で戻ってくる還付金を確認する
- 医療費控除に必要な書類
- まとめ・医療費控除を利用して簡単に所得税の対策を
医療費控除とは
医療費控除制度を知っていても「自分は該当しない」と思い、利用したことがない人も多いでしょう。しかし、よく確認すると該当しているケースも多いものです。
まずは、医療費控除についてしっかり把握していきましょう。
※1:国税庁|No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
医療費控除とは所得控除制度の1つ
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、超えた分の金額が所得から控除される制度。総所得額が200万円未満の人は総所得額の5%を超えた場合に、200万円以上の人は10万円を超えた場合に医療費控除を利用できます。
医療費控除の対象となる費用は、医療機関の治療費だけではありません。一定の条件を満たした場合の交通費やドラッグストアで購入した一部の医薬品も対象になります。
また、自分と生計を共にしている親族が使う医療費は合算可能になるため、確認すると意外と医療費控除の対象になる人は多いのです。
ただし、医療費控除を利用するためには、会社員でも確定申告をする必要があります。確定申告とは、1月1日〜12月31日までの所得や控除額を計算し、所得税を申告納税する手続きのこと。
会社員は本来勤め先の企業で年末調整を行ってくれるため確定申告の必要はありませんが、医療費控除を利用する場合は自分で確定申告をしなければなりません。
自分で確定申告を行うのは面倒かもしれませんが、医療費控除を行うとその年の所得が少なくなり、その結果、所得税も少なくなるため、払い過ぎた所得税が戻ってくるメリットがあります。
もちろん、元々確定申告の必要がある個人事業主は、所得税の軽減につながります。
確定申告が必要な人を徹底解説!年金受給者は?ふるさと納税者は?
医療費控除の適用要件
では、どのような場合に医療費控除が利用できるのでしょうか?
医療費控除の適用要件
- 総所得額200万円以上の人:1年間に支払った医療費が10万円を超える
- 総所得額200万円未満の人:1年間に支払った医療費が総所得金額等の5%を超える
- 納税者本人もしくは納税者と生計を共にする親族のために支払った医療費である
- 該当年の1月1日〜12月31日までに支払った医療費である
なお、「生計を共にする」とは、生活費が同一ということ。親と子どもが同居していなくても、親が子どもの生活費を支払っている場合は、子どもの医療費も医療費控除の対象に含まれます。
また、医療費をクレジットカードで支払った場合は、口座から引き落としされた日ではなくカード決済が行われた日が医療費控除の対象日になります。
医療費控除の申告期間は翌年の2月16日〜3月15日まで
医療費控除の申請が可能な確定申告は、原則翌年の2月16日〜3月15日になります。
ただし、確定申告により払い過ぎた税金が戻ってくる還付申告となる場合は、翌年の1月1日から5年以内に医療費控除を行えば問題ありません。
逆に考えると、5年以内ならばさかのぼって申請することが可能ということ。過去の医療費の領収書を保管している人は、ぜひ確認してみてください。
医療費控除の対象となる費用
医療費控除の対象となる費用は、治療費だけではありません。薬代や出産費、一定の条件を満たした交通費などが対象になります。詳しく確認してみましょう。
なお、以降で出てくる「交通費」とは電車やバスなどの公共交通機関を利用した場合の費用のこと。自家用車で通院した場合のガソリン代やタクシー代は対象外のため、注意してください。
領収書がない交通費は「日付・行き先・料金」などをメモにまとめておけば、領収書代わりになります。
医療機関での診療や治療に関する費用
1つ目は、医療機関での診療や治療に関する費用です。
医療機関での診療や治療に関する費用に含まれるもの
- 診察・治療費用
- 入院時の食費や差額ベッド代
- 通院するための交通費
- 処方箋による医薬品の費用
- あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師・はりきゅう師によるリハビリやマッサージ費用
- 目のレーシック手術費用
- 介護保険対象の介護費用 など
なお、入院時の差額ベッド代は医療機関の指示で差額が発生する病室になった場合のみ対象になります。自ら希望して差額の発生する病室を選んだ場合は対象になりません。
また、人間ドックや健康診断の費用は基本的に対象外ですが、診断結果により発覚した病気を治療するための追加検査などは医療費控除の対象になります。
歯の治療に関する費用
2つ目は、歯の治療に関する費用です。
歯の治療に関する費用に含まれるもの
- 自由診療含む歯の治療費
- 通院するための交通費
- 不正咬合の歯列矯正の費用 など
歯列矯正は、子どもの成長に妨げがある場合など、歯科医が必要と判断した場合のみ対象になります。見た目を整える目的で自ら行った場合は対象になりません。
また、一般的な水準を超えると認められるような特殊な素材を使った治療も医療費控除の対象外になります。
※3:国税庁|No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例
出産に関する費用
3つ目は、出産に関する費用です。
出産に関する費用に含まれるもの
- 定期検診・検査費用
- 通院するための交通費
- 出産するための入院時の食費
- 出産時や緊急時に公共交通機関を利用するのが困難で利用した場合のタクシー代
- 1人で通院するのが困難な場合の付き添い人の交通費 など
里帰り出産のための交通費は医療費控除の対象にならないため、注意しましょう。
※4:国税庁|No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例
医薬品や医療用器具に関する費用
4つ目は、医薬品や医療器具に関する費用です。
医薬品や医療器具に関する費用に含まれるもの
- 治療や療養に必要な医薬品の購入費用
- 松葉杖・補聴器・義歯・眼鏡・コルセットなどの医療器具購入費用 など
医療器具に関しては、医師が必要と認めた場合のみ医療費控除の対象になります。
一定の条件を満たした場合のオムツ代も含まれる
医療費控除では、一定の条件を満たした場合のオムツ代も対象になります。
条件
- 約6ヶ月以上寝たきりの状態で療養している
- 医師の発行する「おむつ使用証明書」を提出できる
上記の2つを満たしている場合は、オムツ代も医療費控除の対象として所得から控除されます。
医療費控除の対象にならない費用
最後に、医療費控除の対象にならない費用も確認しておきましょう。
医療費控除の対象にならない費用
- 自ら個室を希望した場合の差額ベッド代
- 健康診断や予防接種の費用
- コンタクトレンズやメガネの購入費用
- 健康のためのサプリメント購入費用
- 美容整形費用
- 自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代 など
基本的には「医師が必要と認めた場合」の治療費はほぼ医療費控除の対象になると捉えておきましょう。
控除額の計算方法
医療費控除では以下の費用が所得から控除されます。
控除額の計算方法
- 【1年間に支払った医療費】−【補填される金額】−【10万円もしくは所得金額×5%】
年間の総所得が200万円以上の場合は最後の部分が10万円、200万円未満の場合は所得金額×5%になります。
なお、補填される金額には以下の費用が含まれます。
補填される金額に含まれるもの
- 生命保険などの各種給付金
- 高額療養費制度で返金された金額
- 健康保険から支給される出産育児一時金など
例として2つのケースの控除額を確認してみましょう。
ケース1
- 年間所得額:500万円
- 医療費:50万円
- 入院給付金20万円
上記のケースの場合、「50万円−20万円−10万円」=20万円が医療費控除として所得から控除されます。
ケース2
- 年間所得額:180万円
- 医療費:20万円
上記のケースの場合、「20万円−(180万円×5%)」=11万円が医療費控除として所得から控除されます。
なお、医療費控除の上限金額は200万円です。上記の計算式の結果200万円を超えた場合でも、控除される金額は200万円になります。
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※1:国税庁|No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
特定の医薬品購入費用はセルフメディケーション税制が適用される
「ドラッグストアで購入した医薬品も医療費控除の対象になる」と聞いたことがある人も多いでしょう。2017年に始まったセルフメディケーション税制では、市販の医薬品の購入費が所得から控除される制度です。
※6:厚生労働省|セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
セルフメディケーション税制とは
セルフメディケーション税制とは、健康維持や病気予防として一定の取組を行っている人が1年間に購入した医薬品の金額が12,000円を超える場合、超えた分の金額が所得から控除される制度です。
医療費控除と同様、生活を共にする親族が使うために購入した医薬品代も含まれます。控除の上限額は88,000円です。
2021年に終了予定だったセルフメディケーション税制は延長され、現段階では2026年までの制度になっています。
健康維持や病気予防として一定の取組を行っている人とは
では、健康維持や病気予防として一定の取組を行っている人にはどのような人が該当するのでしょうか?
健康維持や病気予防として一定の取組を行っている人とは
- 人間ドック・健康診断・がん検診などを受けている
- 特定保健指導を受けている
- インフルエンザなどの予防接種を受けている など
上記に該当している人が購入した医薬品の金額が、1年間で12,000円を超える場合、セルフメディケーション税制を利用できます。
セルフメディケーション税制の対象医薬品
では、セルフメディケーション税制の対象となる医薬品にはどのようなものがあるのでしょうか?
■セルフメディケーション税制の対象医薬品
医療用医薬品 | 医師によって |
スイッチ | 医療用医薬品のうち、
|
非スイッチ | 2022年以降に購入した市販薬で
|
対象商品かどうか見分けるためには識別マークを目印にすると良いでしょう。
また、レシートには「セルフメディケーションの対象である」ことが記載されています。市販薬を購入した場合は、後から確認できるよう保管しておきましょう。
セルフメディケーション税制の注意点
セルフメディケーション税制は、通常の医療費控除との併用はできません。医療費控除を利用した場合はセルフメディケーション税制は利用できないため、注意してください。
セルフメディケーション税制の利用を検討している場合は、上記のフローも参考にしてください。
医療費控除のやり方
医療費控除を受けるためには、個人事業主だけでなく会社員の人も確定申告を行わなければなりません。ここでは、医療費控除のやり方をご紹介します。
医療費控除の対象となる年間医療費を計算する
まずは、医療費控除の対象となる年間医療費を計算します。
健康保険適用の治療を受けた場合は、定期的に医療費通知書が送られてきます。医療費通知書を基に、自分と生計を共にする家族分の1月〜12月の医療費の合計を計算しましょう。
さらに、医療費通知書に載っていない通院のための交通費も合算し、『(1年間に支払った医療費)−(補填される金額)−(10万円もしくは所得金額×5%)』がプラスの金額の場合は医療費控除を利用できます。
同時に、セルフメディケーション税制に該当するかどうかも確認し、両方該当している場合はどちらを選択するか検討しましょう。
医療費控除の明細書と確定申告書を作成する
次に、医療費控除の明細書と確定申告書を作成します。用紙は国税庁のホームページからダウンロード可能です。
確定申告のやり方を一から解説!全くわからない初めての人もこれで安心
医療費控除の明細書の作り方
医療費控除の明細書は以下の手順で作成します。
医療費控除の明細書の作り方
- ①に住所と名前を記入する
- ②に医療費通知書に記載されている自己負担の合計額を記入する
- ③に実際に支払った医療費の合計額を記入する
- ④に医療費のうち補填された金額を記入する
- ⑤に通院のための交通費など、医療費通知書に記載されていない医療費控除の対象になる費用の詳細と補填された金額を記入する
- ⑥医療費控除の対象になる金額の合計金額と補填される金額の合計金額を記入する
- ⑦AとBにそれぞれ⑥の金額を、Cに「A−B」の金額を記入する
- ⑧Dに確定申告に記入する「所得金額の合計欄」の金額を記入する
- ⑨Eに「D×5%」を、Fに10万円とEの金額を比較して少ない方の金額を記入し、Gに「C−F」の金額を記入する
Gの金額が医療費控除の金額になるため、確定申告書第一表の「27.医療費控除」に転記して、作成は完了です。
なお、セルフメディケーション税制の明細書は上記のように書式が異なるため、注意してください。
確定申告をする
書類の作成ができたら、2月16日〜3月15日の間に税務署に届出をします。紙での申告の他、インターネットによる「e-Tax」での申告も可能です。
医療費控除で戻ってくる還付金を確認する
還付金がある場合、確定申告後約1ヶ月〜1ヶ月半後に指定した銀行口座に振り込まれます。還付金を確認したら、手続きは完了です。
医療費控除に必要な書類
最後に、医療費控除に必要な書類を確認しておきましょう。
医療費控除に必要な書類
- 確定申告書
- 医療費通知書
- 医療費控除の明細書
- 本人確認書類 など
以下の内容が記載されている医療費通知書の原本を提出する場合は、医療費明細書の記載を簡略化できます。
医療費通知書に必要な内容
- 健康保険加入者の名前
- 療養を受けた人の名前
- 治療を受けた年月
- 療養を受けた医療機関の名前
- 健康保険加入者が支払った医療費の金額
- 健康保険組合等の名称
また、現在は医療費の領収書を提出する必要はありません。ただし、自宅で5年間保管する義務があるため、失くさないように気をつけましょう。
まとめ・医療費控除を利用して簡単に所得税の対策を
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、超えた分の金額が所得から控除される制度。対象となるのは医療機関の治療費だけでなく、薬代や通院のための交通費も含まれます。
また、生計を共にしている家族の医療費も合算可能です。「自分は該当しない」と思っていても、確認してみると該当しているかもしれません。
所得税の軽減につながる医療費控除。次の確定申告に間に合うよう、今のうちに確認してみてはいかがでしょうか?
参考資料
国税庁|No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
国税庁|No.1122 医療費控除の対象となる医療費
国税庁|No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例
国税庁|No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例
国税庁|寝たきりの者のおむつ代
厚生労働省|セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
厚生労働省|セルフメディケーション税制の改正点
日本一般用医薬品連合会|共通識別マークについて
この記事の監修者
岡地 綾子 【ファイナンシャル・プランナー】
2級ファイナンシャル・プランニング技能士。 年金制度や税金制度など、誰もが抱える身近な問題の相談業務を行う。 得意分野は、生命保険・老後の生活設計・教育資金の準備・家計の見直し・相続など。