高齢者が不眠になる原因と改善方法を知ろう
5人に1人が不眠症で悩む現代。高齢になると、より不眠の傾向が強くなるのだとか。今回は高齢者の不眠原因や、睡眠の質を上げる方法、就寝環境の整え方などの改善策について解説します。
- 目次
- 不眠症とはどういう状態?
- 高齢者が不眠症になりやすい理由
- 体内時計が変化し、早朝覚醒が起こりやすい
- 加齢によって睡眠が浅くなり、中途覚醒が増える
- 定年退職後に生活のリズムが乱れやすい
- 睡眠と関係が深いホルモンの分泌量が減少しやすい
- 運動習慣を身につけよう!
- 入浴で睡眠の質を上げよう!
- 睡眠・就寝環境を整えよう!
- 布団の中の最適な温度は33度前後、湿度は50%前後
- ヒートショック予防のため、冬の寝室の室温は23度以上に!
- 寝室の照明にも一工夫!
- 幸せホルモンのセロトニンと、睡眠ホルモンのメラトニンの分泌量を増やす方法
- 就寝前のアルコールとニコチンを避けたほうがいい理由
- 腸内環境を整えて睡眠の質を上げよう
- 就寝前のスマホ・パソコン操作を避けたほうがいい理由
- 持病がある人の不眠症状の解消法
- まとめ:生活習慣の見直しや睡眠環境の調整が重要
不眠症とはどういう状態?
不眠症とは、寝付きが悪い、眠りが浅い、夜中に何度も目が覚める、などの症状が1か月以上続き、日中の倦怠感や食欲不振などの不調を抱えやすい状態をあらわします。
日本人の成人のうち、実に21.7%もの人が慢性的な不眠症状に悩んでいるそうです(※)。
不眠症の主な症状としては、下記の4つのタイプに分けられます。
<主な不眠の症状>
- 入眠障害:寝床に入ってから寝付くまでに時間がかかる
- 中途覚醒:眠りが浅く、夜中に目が覚めてしまい、再び眠りに入るのが難しい
- 早朝覚醒:起床時間よりも早く目が覚めてしまい、再び眠りに入るのが難しい
- 熟眠障害:睡眠時間は取れているが、眠りの満足度が少ない
更年期以降の人が訴える不眠症状としてもっとも多いのは、途中で目が覚めてしまう「中途覚醒」の症状です。
関連記事
医師のアンケート結果から導く「更年期の不眠を改善する方法」
※参考資料
日本人成人の21.7%が慢性的な不眠 平成30年(2018)「国民健康・栄養調査」より | 生活習慣病の調査・統計 | 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
高齢者が不眠症になりやすい理由
高齢者になるとなぜ不眠症になりやすいのか、その理由について、一つずつ説明していきます。
体内時計が変化し、早朝覚醒が起こりやすい
高齢者になると、早寝早起きの傾向が見られるようになります。
加齢で体内時計が変化して、血圧、体温、ホルモン分泌など、睡眠を支える多くの生体機能のリズムが前倒しになり、就寝と目覚めの時間が早まるのです。
また、高齢になるほど寝床にいる時間が長くなる傾向も見られます(※)。
早朝覚醒して、眠気がない状態で長い間寝床にいると、睡眠の質が下がり、入眠障害や中途覚醒、熟眠障害にもつながりやすくなります。
睡眠の質を上げるには、「寝床に入ったらすぐに寝る」「早朝覚醒してしまったら、寝床からすぐに出る」などのメリハリをつけることが重要です。
※参考資料
高齢者の睡眠 | e-ヘルスネット(厚生労働省:図3「年代ごとの入床・起床時刻」より)
加齢によって睡眠が浅くなり、中途覚醒が増える
高齢者の睡眠は若年者と比べて浅いということがわかっています。睡眠時の脳波を比較すると、高齢者の場合、深いノンレム睡眠の状態が少なくなり、浅いレム睡眠の状態が増えるのです(※)。
眠りが浅いと、熟睡しているときには気がつかなかった尿意や物音などで、何度も目が覚めてしまいやすくなります。
高齢者の「中途覚醒」が多いのは、このためです。
※参考資料
高齢者の睡眠 | e-ヘルスネット(厚生労働省:若年者と高齢者の睡眠の比較」のグラフより)
定年退職後に生活のリズムが乱れやすい
働く世代の人ですと、朝の起床時間やごはんを食べる時間、夜の就寝時間など、毎日同じくらいの時間をベースに、生活していることが多いでしょう。
わざわざ時間の設定をしていなくても、無意識で動いている人がほとんどかもしれません。
一方、定年退職などをした人ですと、毎日の規則正しい生活を保つことが難しくなります。通勤・勤務などの決まった用事がなくなったことにより、身体活動が減ってしまうケースも増えます。
規則正しい生活のリズムが狂うと、夜になってもなかなか寝付けず(入眠障害)、身体活動の減少が影響して熟睡しづらい(熟眠障害)などの問題が発生しやすくなるのです。
睡眠と関係が深いホルモンの分泌量が減少しやすい
医師のアンケート結果から導く「更年期の不眠を改善する方法」という記事でもお伝えしたように、更年期のホルモンバランスの変化が、不眠の原因となることがわかります。
また、中高年・シニア必見!健康維持の秘訣とは?という記事の「食習慣を整える」という項目でもお伝えしたように、睡眠にはセロトニンやメラトニンといったホルモンが大きく影響しています。
高齢になると、セロトニンやメラトニンなどの分泌量が減ってしまうため、意識的に分泌量を増やす努力が必要です。
具体的な方法については、のちほど詳しくご説明します。
運動習慣を身につけよう!
先ほども述べたように、良質な睡眠をとるには規則正しい生活が欠かせません。毎日決まった時間に寝起きし、1日3食を摂取することが重要です。
身体活動の減少を改善するには、適度な運動を生活に取り入れることも考えましょう。
運動習慣がある人には、不眠の症状が少ないことがわかっています(※)。
1回の運動だけでは不眠症の改善には至りませんので、日々の暮らしの中に運動を取り入れて、習慣づけることが重要です。
体への負担が少ない有酸素運動を、就寝の3時間前くらいに行うのが効果的ですので、夕方から夜にかけて、散歩や軽いランニングなどをすると良いでしょう。
反対に、就寝前の激しい運動は睡眠を妨げますので、避けてください。
※参考資料
快眠と生活習慣 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
入浴で睡眠の質を上げよう!
入浴の習慣も、睡眠にとって良い影響を与えることがわかっています。
人間の体は、体温が下がると眠気が起こるメカニズムを持っており、就寝直後に体温が下がると、より満足度の高い睡眠を得ることができます。
体温の上がり下がりをうまくコントロールして入眠を促すには、夕方から夜にかけて、就寝の2〜3時間前の入浴が最適です。入浴で体温を一時的に上げ、寝床に入ったころには熱が下がるため、スムーズに入眠することができるでしょう。
なお、高齢者になると脱水症状を起こしやすく、心臓への負担もかかりますので、長時間の入浴や、高温の湯船などは控えてください。
厚生労働省のe-ヘルスネット(※)では、寝付きの効果を高めるには、38度のぬるめのお湯で25〜30分程度、42度の熱めのお湯なら5分程度、半身浴なら約40度で30分程度の入浴を推奨しています。
ただし、個人の体質や当日の体調などにもよりますので、その日の自分の体調に適した入浴時間になるよう、調整しましょう。入浴前後の水分補給も忘れずに行ってください。
※参考資料
快眠と生活習慣 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
睡眠・就寝環境を整えよう!
入眠のしやすさを向上し、快眠をするためには、寝室や寝具などの就寝環境を整えることも重要です。
布団の中の最適な温度は33度前後、湿度は50%前後
「ふとんの西川」こと西川産業株式会社が設立した「日本睡眠科学研究所」の研究によると、理想的な寝床内(寝具内)の温度は33±1度、湿度は50±5%RHなのだとか(※)。
夏場はエアコンで、冬場は加湿器で湿度を調整し、掛け布団の厚さで寝床の温度を調整してください。
※参考資料
02 寝室環境・寝床内の研究|研究活動|眠りの研究|眠りの研究|ふとん(布団)などの寝具なら西川公式サイト
ヒートショック予防のため、冬の寝室の室温は23度以上に!
寝室内の理想的な温度に関しては諸説ありますが、高齢者の場合はとくにヒートショックを考慮した温度設定にするのが望ましいでしょう。
ヒートショックとは、急激な温度の変化によって体が受けるダメージのことです。
気温に急激な変化があると、人の血圧は乱高下し、ときには脳出血や大動脈解離、心筋梗塞、脳梗塞などの深刻な病状を引き起こす可能性が高まってしまうのです。
ヒートショックは、屋内の寒暖差が激しくなる冬の夜に発生することが多く、高齢者の主要な死亡原因としても知られています。
家庭内でもっとも起こりやすい場所は、お風呂場や脱衣所、トイレなどですが、布団の中と室内の温度差が大きくなりがちな、冬の寝室も要注意です。
ヒートショックを防ぐには、布団の中の適温33度と10度以上の差が開かないよう、室温を23度以上に設定することをおすすめします。
ヒートショックに関連した記事
今すぐできる!家庭内のヒートショック対策
寝室の照明にも一工夫!
就寝時の室内は、暗い状態のほうが睡眠に向いています。
暗くなると、睡眠と関係が深い「メラトニン」が分泌されやすくなるからです。
そのため、寝室の照明は電球色などの暖色系のものがおすすめです。
青みがかった昼光色や、自然の光に似た昼白色などの明かりは、リビングで過ごすのにはちょうどいいかもしれませんが、長時間浴び続けると体内時計を遅らせてしまう可能性があります。
睡眠中は明かりを消し、真っ暗にするのがベストですが、中途覚醒してトイレに立つ可能性を考えると、最低限の明かりはほしいものです。そこで、廊下などにフットライトや常夜灯などを設置しておくといいでしょう。
人の気配を感じた時だけに明かりがつく、人感センサーがついたLEDライトなどは、眠りを妨げる心配が少なく、省エネもできておすすめです。
幸せホルモンのセロトニンと、睡眠ホルモンのメラトニンの分泌量を増やす方法
睡眠ホルモンとも呼ばれる「メラトニン」を分泌するには、精神を安定させる効果があり、幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」の存在が欠かせません。
まず、セロトニンの分泌を高めるには、肉や魚、乳製品、豆類などに多く含まれる「トリプトファン」を朝食でしっかり摂りましょう。
食事で摂ったトリプトファンをセロトニンに変えるには、適度な運動が効果的です。
朝食後に、少し汗をかく程度の散歩やジョギングなどをするといいでしょう。
朝にセロトニンの分泌をしっかりしておくと、夜のメラトニンの分泌量も増えます。
さらに、朝起きてから太陽の光をしっかり浴びることも重要です。起きたらまずカーテンを開けて、自然の光を部屋の中に取り込んでください。
メラトニンは、日光を浴びた約16時間後に、脳の中にある松果体から分泌されると考えられています。
たとえば朝7時に目覚めて太陽に当たると、夜11時ごろにはメラトニンが分泌され、眠りにつきやすくなるでしょう。
トリプトファンやメラトニンについて解説した関連記事
中高年・シニア必見!健康維持の秘訣とは?
就寝前のアルコールとニコチンを避けたほうがいい理由
寝酒やナイトキャップなど、寝る前にアルコールを飲む習慣がある人は要注意です。
少量のアルコールには、脳の興奮を鎮める効果があるため、眠りにつきやすくなることもありますが、過度のアルコール摂取は、中途覚醒や早朝覚醒が起こりやすく、熟眠障害に陥りやすいからです。
アルコールの酔いが覚めると、脳の活動が活発化してしまうため、深い眠りを妨げる恐れがあるでしょう。
また、寝る前の喫煙もおすすめできません。
タバコに含まれるニコチンには、アドレナリンの分泌を促す作用があります。
アドレナリンが分泌されると交感神経が優位になり、体が「活動モード」になってしまい、眠りにつきにくくなってしまうからです。
腸内環境を整えて睡眠の質を上げよう
医師のアンケート結果から導く「更年期の不眠を改善する方法」という記事でもお伝えしたように、腸内環境と睡眠には深い関係があります。
人の体は、腸内細菌の影響を受けて、免疫力やリラックス効果が高まり、睡眠の質が良くなると考えられているのです。
日頃の食事で、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を多く含む発酵食品や、善玉菌の餌になる水溶性食物繊維やオリゴ糖を含む食品を積極的に摂り、善玉菌が働きやすい腸内環境を整えましょう。
就寝前のスマホ・パソコン操作を避けたほうがいい理由
寝る前のスマホやパソコンの操作も避けたほうがいいでしょう。
スマホやパソコンの画面からは「ブルーライト」と呼ばれる青い光が出ていますが、このブルーライトを浴びると、メラトニンの分泌が低下し、体内時計が狂ってしまうそうです。
やむを得ず、夜遅くにスマホやパソコンを操作しなくてはいけないときは、時間設定などで画面を暖色系にしたり、暗くしたりして、なるべく明るい画面を見ないようにしましょう。
参考資料
睡眠の質(ブルーライト) ~新しい生活様式~ │ 生活習慣病を予防する 特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
持病がある人の不眠症状の解消法
不眠の症状や原因は、人によってもさまざまです。
高血圧や心臓病、糖尿病などの生活習慣病や、うつ病などが原因で不眠が生じやすくなることもあります。
その場合、不眠そのものよりも、持病の治療をベースに解消法を考える必要があるでしょう。
病気の症状が原因で不眠に陥っている場合は、主治医に相談のうえ、不眠治療にあたってください。
まとめ:生活習慣の見直しや睡眠環境の調整が重要
高齢になると、生活環境の変化や、加齢によるホルモン分泌量の減少などから、若い世代よりも不眠症状が出やすくなります。
さらに不眠が原因で、生活習慣病を発症することもあります。
持病や持病の治療で服用している薬などに原因がある場合は、治療に専念するとともに、今回の記事でご紹介したように、生活習慣の見直しを図り、睡眠環境を整えるなどして、不眠の改善に励んでください。
改善したけれどもなかなかうまくいかない、という場合は、かかりつけの内科や精神科などの医師に相談してみましょう。ご自分に合った最適な改善策が見つかるかもしれません。
睡眠の質を高めて、楽しい老後生活を目指しましょう!
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この記事の監修者
高橋正美 【健康管理士一般指導員】
日本FP協会所属のファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)として相談業務にあたる中、お客様の急死や、若い仲間の大病による入院などを目の当たりにして、生活習慣病予防の大切さを痛感。医療費等の支出削減を図るためにも、健康管理が重要であることに気づき、健康管理士一般指導員の資格を取得。お客様相談の中で、必要に応じて健康寿命延伸のための情報も提供している。