withコロナ・アフターコロナのシニア転職
新型コロナウイルス感染拡大の影響でシニアの転職はどう変化する?ウィズコロナ、アフターコロナのシニア転職を考えます。
米国や欧州の国のいくつかは、早くも4月半ば頃から、新型コロナウイルスによる規制を緩和し、経済再生に向けた動きを開始し始めていました。
日本でも新型コロナ収束後をにらんだ「アフター(after)コロナ」を予測したり、準備したりする動きはかなり早い段階からメディアの記事や、企業経営者のSNSなどで見ることができました。
一方で、収束までの期間が見えず、長期化する恐れがあることや、第二波、第三派といった再流行の懸念もあることから、どのように新型コロナと共存すべきかを考える「ウィズ(with)コロナ」といった言葉もよく聞くようになりました。
では、ウィズコロナ、アフターコロナの世界では、シニア層の転職・就職はこれまでとどのように変化するのでしょうか? あるいは変化しないのでしょうか?
既に新卒採用などは、採用日程の変更やオンライン面接の導入、20年卒の新卒者については内定取り消しといった影響が出ており、今後も企業の採用が縮小することが懸念されていますし、コロナ倒産も相次いでいて、企業の求人数そのものが減少する懸念もあります。
今回は、シニアの転職・就職が、ウィズコロナ、アフターコロナの世界でどうなるかについて考えていきたいと思います。
コロナ禍による景気悪化の影響は?
まずはウィズコロナの世界から見ていきましょう。
外出の制限などにより、一部を除いて経済が停滞、あるいは停止して、景気が悪化していることは間違いありません。
4月27日に外務省が「極めて厳しい」という初の言葉を用いて、全国の景気判断を下方修正したように、日本の経済は非常に苦しい局面と言えます。もちろん、日本だけでなく世界の多くの国々が苦しい状況にあるため、貿易、旅行、グローバル企業など、様々な方面において景気の停滞や悪化が見られます。
厚生労働省が4月27日に発表した、3月の有効求人倍率も1.39倍と、2016年9月以来、3年半ぶりの低い水準となり、既に求人数の減少が発生していることがわかります。
有効求人倍率は1月から急低下しはじめており、1.57倍だった2019年12月から約0.2ポイント、2月からは0.06ポイント下がるなど、徐々に下がり続けていることがわかります。
完全失業率も2.5%と2月から0.1ポイント悪化しています。
業種や地域によって差があるものの、このまま新型コロナによる自粛が続けば、さらに求人数が減り、その中でももともと若い世代より企業の優先度が低いシニアの求人は減ってしまうのではないかと、懸念する人も多いと思われます。
コロナ禍でも大きく下がらないシニア人材需要
しかし、業種や地域による求人数の偏りが大きいこともまた事実です。
国土交通省が4月27日に発表した3月の建設労働需給調査結果では、8職種(型わく工(土木)、同(建築)、左官、とび工、鉄筋工(土木)、同(建築)、電工、配管工)の全国の過不足率が0.6%の不足となり、建設業ではむしろ人材不足の状況であったことがわかっています。
もちろん、大手ゼネコンの一部が工事停止を発表したのは4月半ばのことであり、3月は年度末で工事が多い時期だったことも影響しているかもしれませんが、屋外や郊外の現場も多く、オフィスと異なり人員同士の距離が近くなく、場合によってはもともと粉塵用のマスクなどを着ける、建設業の環境にも理由があるのかもしれません。
また、働き手が集まるかどうかや、新人の教育が可能かは別としても、医療や介護など、新型コロナウイルス感染防止の最前線で人材が不足していることも周知の事実です。
シニアに特化した人材紹介サービスを行う株式会社シニアジョブが、3月27日から4月5日にかけてシニア人材が勤務する企業に対して行ったアンケートの中でも、約半数の企業が「今すぐ人材を採用したい」と回答するなど、依然として人材需要が大きいことがわかっています。
上記のアンケートでは全体の4割強、「今すぐ人材を採用したい」回答企業の中では8割以上が「今すぐ人材を採用したく、50歳以上も採用したい」と回答しており、シニアについての採用意欲も高いままであると言えます。
こうしたことから、地域や業種によるものの、シニア人材を含めた人材需要は依然として高めで、自粛要請の期間や原材料の流通などに左右されるものの、シニア人材についての企業の採用意欲はそこまで低下していないと言えるでしょう。
シニア人材が恐れるウィズコロナ
一方で、シニア人材の就業・転職の意欲は、やはり地域や業種によるものの、若干下がりつつあります。
新型コロナウイルスは高齢者がより重症化しやすいという情報によって、若手よりもシニア人材が抱く恐怖感が大きいためで、医療や介護など、感染者や多くの方との接触が避けられない業種ではそれが顕著になる傾向があります。
もともとシニア人材は、業種や職種、資格などによって、若手人材よりも需要の上下幅が大きいのですが、今後のウィズシニアの転職・就職では、これまで以上に「売り手市場」になる職種と「買い手市場」になる職種の差が激しくなると考えられます。
使命感や経済的理由から、感染リスクがあっても働きたいというシニア人材もいると思われますが、そうした方は既に勤務していることが多いため、「売り手市場」の傾向にある業種での人材確保は難しく、「買い手市場」の業種ではそもそも求人以前に企業の事業活動自体がストップしていることから、ウィズコロナの世界ではシニアの人材需要は大きく下がらないものの、シニア人材の流動性は全体的に若干下がるものと思われます。
アフターコロナのシニア転職は活発に?
次に、アフターコロナの世界でのシニア人材転職・就職を見ていきましょう。
まず、シニア人材の動き出しは、他の年齢層よりも遅くなると思われます。
これはやはり。重症化のリスク、そして年金受給者など若手世代よりも余裕のある方が一部にいるためです。
しかし、シニア層は若手世代よりも就職が難しく、給与所得については若手よりも低いため、結局短期間でシニアの転職・就職の動きも若手に追いつき、すぐにコロナ以前の水準に戻り、コロナ以前よりも高まっていくものと考えられます。
コロナ禍の中にあっても、政府は3月31日に「70歳就業法案」と呼ばれる、70歳までの就業確保の努力義務を企業が負う法案を成立させており、年金の改正法案も審議中であることで、ますますシニアの転職・就職が活発化する流れとなっています。
特に現在、60歳未満の方の今後については、転職や再就職を含めたキャリアの見直しを、否が応にも考えていかなければならない時期がやって来るため、コロナ収束からさほど期間をおかずに、シニアの転職・就職はこれまで以上に活発化するでしょう。
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アフターコロナの世界とシニアのITスキル
アフターコロナの世界でシニアが転職・就職する際のポイントとして、ITスキルの有無や、テレワークなど新しい働き方・価値観への対応が語られることが多くなっています。
例えば、コロナ禍でテレワークが普及したことで、ITスキルがないとそれだけでマイナスとなるとか、アフターコロナの世界ではテレワークが当たり前でオフィスが要らなくなるとか、これまでのコミュニケーションしか取れない人材は不要になるといった話題が、まことしやかにメディアを賑わせています。
しかし、そうした世界がアフターコロナで急展開するのは一部の業界のみであり、また、そうした世界に変わったからといって、シニア人材の多くが不利になると考えるのも極端過ぎる考え方です。
確かに年配の方ほど、ITに弱い傾向はありますが、すべてのシニアがITを使えないわけではありませんし、また、最新のIT危機やアプリを用いることで、むしろシニアに優しい業務環境を整えることも可能です。
さらに、テレワークなどの働き方が可能な職業自体が職業全体から見ると極わずかであって、オフィスや働き方のあり方についても、コロナ以前にまったく戻らないまま進んでいくのではなく、新しいあり方を考えるきっかけに過ぎないことにも注意が必要です。
コロナ禍の世界は、初めて人との接触を極力避け、ITを駆使してやれることを探るタイミングとなりましたが、アフターコロナの世界では人との接触の機会が戻ることで、会うという重要な手段をどう最大限に活かすのかを改めて考えるタイミングとなるでしょう。
シニアの転職・就職はこれまで以上に活発化する時代が来ると思われますが、ここで大きく変わっていくのはシニアの働き方ではなく、シニアの転職・就職の支援方法なのかもしれません。
この記事の監修者
松澤裕介 【キャリアアドバイザー】
キャリアアドバイザーとして、転職相談3,000名以上、紹介企業数10,000社以上に対応。年間1,000名以上の履歴書、職務経歴書を作成。主に医療・介護業界の人材紹介を担当。「シニア人材の転職市場・転職の注意点」などのテーマで記事やコラムを監修。