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【事例あり】使わなくなった田畑が収益を生む「農地活用ビジネス」とは?

新名範久 【税理士・社会保険労務士】

さまざまな事情で使われなくなった田畑は、遊休農地や耕作放棄地などと呼ばれます。この記事では、利益を生む農地の活用方法や、実際の活用事例などを紹介します。

目次

まずは「農地」とは何なのか、そして休眠状態となった不作付地や遊休農地、耕作放棄地など、それぞれの意味と違いについて、確認しておきましょう。

農地とは、作物を育てるための土地のこと

農地とは「耕作の目的に供される土地」のことを指します。
もう少しわかりやすく言うと、作物を育てるために用意した土地のことです。
田んぼや畑、果樹園、牧草採取地、種苗の苗圃などが農地にあたります。

農地には、現段階で耕作を目的に使用されている土地のほか、不作付地や遊休農地、荒廃農地、耕作放棄地なども含まれます。

不作付地とは

不作付地は、農林水産省の統計調査における区分で、過去1年以上、作付け(農作物を田畑に植え込むこと)をしなかったものの、今後数年の間に再び耕作をする意思がある農地のことを指します。

遊休農地とは

遊休農地とは、農業委員会が調査の結果、今後耕作の見込みがないと決定した農地のこと
遊休農地は、農地法において定義されている用語です。
各市町村に設置された農業委員会が調査した結果、現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地(1号遊休農地)、またはその農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度と比べて著しく劣っている農地(2号遊休農地)のいずれかに該当すると判断した農地のことです。

荒廃農地とは

荒廃農地は、農林水産省が毎年行う「荒廃農地調査」(※)で使われる用語で、現段階で耕作をされておらず、客観的に見て通常の農作業では作付け不可能となっている農地のことです。
再生利用が可能なものと、再生利用が困難と見込まれるものの2つに区分されます。

※「荒廃農地調査」は、2021(令和3)年度に遊休農地と調査統合されたため廃止されましたが、本稿では従来の定義のまま、「荒廃農地」の用語を使用します。

耕作放棄地とは

耕作放棄地は、農林水産省が5年ごとに行う「農林業センサス」という調査で使われる用語です。
過去1年以上作付けをしておらず、農家などの主観により、今後数年の間に再び耕作をする意思がないと判断された農地のことです。
耕作の意思については、農家などから得た回答をもとに判断します。

地目が田畑となっている以外でも農地と判断されることもある

農地は、不動産登記の地目(その土地の目的)が、田や畑となっていることがほとんどですが、地目が田や畑になっていなくても、実際に耕作地として使われている場合は、農地として判断されます。

ただし、家庭菜園などの宅地内の一部を耕作で利用している土地は、農地ではありません。

農地転用とは、農地から別の目的の土地に変更すること

農地転用とは、農地を農地以外の土地に変更すること
農地転用とは、農地を農地以外の土地に変更することです。
たとえば住宅や工場の敷地や、道路、山林、資材置き場などに変えることを農地転用と言います。
水害や火災などの人為的ではない事由で農地がつぶれてしまった場合、農地転用には該当しません。
また、家庭菜園は前述のとおり農地ではありませんので、たとえば増改築などで家庭菜園をつぶしたり、駐車場などに用途変更したりしても、農地転用には該当しません。

下記のいずれかに該当する農地は、原則として転用ができません(※1)。

  1. 市町村の農業振興地域計画に基づき「農用地区域内農地」と定められた、生産性の高い優良な農地
  2. 「甲種農地」と定められた、農業公共投資後8年以内の農地、集団農地の高性能農業機械で営業可能な農地
  3. 「第1種農地」と定められた、10ヘクタール(10万平方メートル)以上の集団農地、農業公共投資対象農地、生産性の高い農地


ここに挙げた条件に該当しない、第2種農地、第3種農地などは、農業委員会を経由して都道府県知事、または指定市区町村の長(※2)の許可を得ることで、農地以外の土地に転用することが可能です。

なお、日本の農地面積は、転用や荒廃農地の発生などから、年々減少しているのだそうです(※3)。

※1:甲種農地と第1種農地の場合、転用後の用途や目的によっては転用が認められることもあります。
※2:開発許可に関する指定市町村の指定状況:農林水産省より。
※3:農地・耕作放棄地面積の推移(内閣府)より。

なぜ耕作放棄地や荒廃農地が増えているのか

農林水産省の「耕地及び作付面積統計」や「荒廃農地の現状と対策について」などの資料によると、農地転用によって農地面積全体は減っているものの、そのうちの耕作放棄地の面積は、年々増加の一途をたどっていることがわかります。
つまり、きちんと利用されている優良な農地が減ってしまっているということです。

農林水産省が各市町村を対象に調査し、2015(平成27)年に公開した「耕作放棄地対策に関する意向及び実態把握調査結果」という資料によると、荒廃農地が発生する主要な要因として、下記のようなものが挙げられています。

荒廃農地の発生原因グラフ 農林水産省「耕作放棄地対策に関する意向及び実態把握調査結果」(平成27年4月)より
農林水産省「耕作放棄地対策に関する意向及び実態把握調査結果」(平成27年4月)内の「荒廃農地の発生原因」をもとにシニアタイムズ編集部が作成

荒廃農地の発生要因として、もっとも多く見られたものは「高齢化・労働力不足」、次いで「土地持ち非農家の増加」「農産物価格の低迷」、そして土地元来の要因として「土地の自然的条件が悪い」などの理由も見られました。

このように、高齢化社会は農業にも大きな影響をおよぼしています。
そして、農業経営の規模を縮小するなどして、農家の定義から外れた「土地持ち非農家」も増えているようです。

また、輸入作物の増加や天候不順などの影響から、「農産物価格の低迷」や「収益性の低下」などの問題も起こり、荒廃農地の増加に拍車をかけていることがわかりました。

国全体で農業が衰退すると、食料自給率の低下につながり、食糧不足などの問題を引き起こす理由にもなり得ます。
ですので、荒廃農地や遊休農地の解消は、国全体で取り組まなければならない課題といえるのです。

荒廃農地の増加とともに、空き家の増加も社会問題になっています。空き家問題については、下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
空き家の有効な活用方法 - 全国の事例や補助金制度も紹介

遊休農地解消の取り組みや補助金制度などを知ろう

耕作放棄地を増やさないようにするためには、助成制度や交付金などについて知っておき、適切に利用することが重要です。
たとえば「中山間地域等直接支払制度」や、「多面的機能支払交付金」などは農業に活用できる制度で、「荒廃農地等利活用促進交付金」なども利用できます(2022年10月現在)。

また、首都圏や都市部の農地では、市民農園の開設などの活用方法も考えられます。
耕作放棄地になる前に、農地バンクに相談する方法もおすすめです。

使わない田畑を人に貸すなら「農地バンク」を利用しよう

農地バンクの仕組みの図解
農地バンクとは、正式名称を「農地中間管理機構」といい、2014(平成26)年度に全都道府県へ設置されました。
農地バンクは、農地を貸したい人と借りたい人の間に立って仲介をする役割を果たしており、都道府県ごとに公益財団法人や一般財団法人、一般社団法人などが運営しています。
ただし、農地バンクでは農地の「貸し借り」を仲介するのみで、売買の補助は行っていません。

跡継ぎがおらず農業をリタイアする人や、離れた場所にある農地の維持管理が大変な人、農地を相続したものの農業経営をする予定がない人などは、農地バンクに貸し出しの相談をするといいかもしれません。
また、分散した農地をまとめて交換したい人や、新たに農業を始めたい個人・法人など、借りたい人の相談も受け付けています。

農地バンクでは、農地を貸す側のことを「出し手」、借りる側を「受け手」と表現します。
農地バンクを利用する、出し手と受け手のメリットとしては、下記のようなものがあります。

<農地バンク利用で農地を貸す「出し手」のメリット>

  • しっかりした基準で選ばれた受け手に貸し出されるため、(農地バンク経由で)賃料が確実に振り込まれる
  • 農地は貸付期間終了後に必ず返却される
  • 契約した受け手が耕作できなくなった場合は、農地バンクが新しい受け手を探してくれる
  • 税金の優遇措置が適用される(所有するすべての農地を10年以上貸し付けた場合)


<農地バンク利用で農地を借りる「受け手」のメリット>

  • 複数の農地を借りる場合でも、契約や賃料支払い先は農地バンクだけに集約できる
  • 分散した農地を交換してまとめられる


農地バンクで貸し借りできる農地を探すには、農林水産省が管理運営を行っている「eMAFF農地ナビ」の利用がおすすめです。

参考資料

農地の売却はなぜ難しいのか

使わない農地を貸し出す場合、農地バンクを利用する方法が考えられますが、農地の売却となると、ほかの宅地などの不動産よりも難易度は高くなります。
なぜなら、農地には農地法という法律が適用されており、農地の売買に対してさまざまな条件が課せられているからです。

まず農地を売るには、農業委員会の許可が必要です。
さらに50アール(5,000平方メートル)以上の大きな農地を売ることは、原則できません(地域による)。これは周辺の農地におよぼす影響が大きいためです。

そして農地を購入できるのは、農業委員会に許可を得た農家や農業従事者などに限られ、各種の条件を満たしていない新規就農者が買うことはできません。

農地を農地として売買するのも大変ですが、農地転用後の売買にも手間がかかります。農地転用の項目でもお伝えしたように、転用には多くの手続きを要するうえに、転用資金もある程度必要だからです。

このように、農地を売却するには、ほかの不動産売買よりも多くの壁を乗り越えなければなりません。

農地転用できない農地の活用方法

農地転用できない農地には、農地バンクを利用した貸し出しや、売却のほかにも、有効な活用方法があります。
詳しい内容を見ていきましょう。

農作業の負担が軽い作物に変更(転作)する

栽培の手間が比較的にかからず、中山間地域でも広く栽培されている「そば」
以前とあるテレビ番組で、山間にある田んぼを畑に変えた80歳を超える方が登場し、「田んぼの作業がしんどいので畑に変えた」とおっしゃって、畑を耕していました。
山間地にある田んぼですと、とくに維持管理が大変なのだそうです。

このように、農業からは引退せずに、耕作しやすい作物に変えて農地を維持する方法もあります。
農業の継続は、生活の支えになるだけでなく、健康や生きがいの維持にもなり、健康長寿にもつながります。
農作業で体を動かすのは苦ではないけれども、後継者不足などで引退を考えている人は、転作を検討してみるのもいいかもしれません。

健康長寿に関連した記事


農林水産省の「耕作放棄地への導入作物事例」(平成20年2月作成)という資料によると、そば、なたね、大豆、山菜類、放牧、茶、果樹、マコモダケ、さつまいもなどが、耕作放棄地の解消事例として紹介されています。

<耕作放棄地の解消事例>

  • そば:比較的手間のかからない作物として、中山間地域においても広く栽培されている
  • なたね:なたね油が採れるほか、花が景観美化に貢献し、地域振興にも一役買っている
  • 大豆:転作に関する助成金の制度が利用できる
  • 山菜類:軽作業で高齢者や女性でも栽培可能。狭小な土地でも育てられ、鳥獣害を受けにくいという特徴もある
  • 放牧:畜産だけでなく、雑草繁茂や近隣農地の鳥獣害防止にも役立つ。急峻な山間地域でも営農が可能
  • 茶:近年のお茶ブームでニーズが高い。痩せた土地でも作付け可能で、鳥獣害を受けにくい
  • 果樹(ブルーベリー):ほかの果樹とくらべて栽培が容易で、作業負担が軽いため高齢者向き。観光農園としての営業も可能
  • マコモダケ:健康食ブームで注目されている。水田などでも栽培可能で鳥獣害にも強い
  • さつまいも:芋焼酎ブームもあり需要が高い。観光農園や芋掘り体験などの地域交流にも適している


上記の事例などを参考に、転作を検討してみてはいかがでしょうか。

参考資料
耕作放棄地への導入作物事例(農林水産省)

市民農園(クラインガルデン)を開設する

都市部の農地活用で人気なのが、市民農園やクラインガルデン
市民農園とは、農家以外の一般の人々が、小さな面積の農地を利用して、自家用の野菜や花を栽培する田畑のことです。
場所によっては「クラインガルデン」(ドイツ語で「小さな庭」を意味する)などとしても親しまれています。

市街地や、人が集まりやすい大きな公園や商業施設などに近い農地であれば、市民農園としての需要が見込めます。
農園での農業体験は、レクリエーションや体験学習として学校教育にも取り入れられていますし、これまで農作業に接する機会がなかった大人にも人気です。
また、定年退職後のシニアが庭いじりを楽しむために、市民農園を利用するケースも増えています。

農林水産省による、市民農園の開設をすすめる資料では、下記の市民農園の事例が紹介されています。

<日帰り型市民農園>

  • 北海道北広島市「市民農園さとみ」
  • 岐阜県関市「関市田原リフレッシュ農園」
  • 埼玉県鴻巣市「こうのとり四季彩ファーム」


<滞在型市民農園>

  • 兵庫県多可町「フロイデン八千代」


<日帰り型・滞在型市民農園>

  • 佐賀県唐津市「おいでな菜園」
  • 新潟県小千谷市「おぢやクラインガルテンふれあいの里」


これらの市民農園は、必ずしも市街地にあるとは限らず、自然の中にポツンと存在することもあります。
農地を活用したビジネスチャンスは、さまざまな場所にころがっているようです。

参考資料
【令和4年度版】市民農園を始めよう(農林水産省ホームページ)

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営農型太陽光発電を運用する

農地上部に設置された太陽光パネルで発電する「営農型太陽光発電」
耕作放棄地になった理由が「農作物の価格低下」や「収益性が低い」の場合は、「営農型太陽光発電」の導入を検討してみるのも一つの方法です。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農業を行いつつ、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光パネルを設置する発電方法です。

太陽光発電で生まれた電力は、農作業でかかる電力に当てるなどして自家利用し、余った電力は売電に回します。
つまり、1つの敷地で作物の売り上げと、太陽光発電の売り上げの2つの収入を得て、なおかつ農業経営に必要な電力も節約できるわけです。

ただし、ある程度遮光されてしまうため、農作物によっては収穫に影響が出てしまうかもしれません。
営農型太陽光発電の装置を導入する際は、各地域の地域農政局などに相談してみましょう。

参考資料
営農型太陽光発電について:農林水産省

農地転用できる農地の活用方法

農地転用でトランクルーム(貸倉庫)経営に転じたイメージ
都市計画法の市街化区域内にある農地は、宅地への転換が推進されている農地と、保全する農地(生産緑地)に分かれており、前者は農地転用ができます。

宅地に転用した土地を売却する方法もありますが、土地の整備や建築費、不動産管理などにかかる初期費用を準備できるのであれば、アパートやマンションなどの賃貸経営をして、定期的な家賃収入を得ることも可能です。

トランクルームや貸倉庫などは、住宅よりも建築費用や管理費用を抑えられますし、駐車場や駐輪場などであれば、さらに費用を抑えられるでしょう。
ただし、交通機関の利便性が低く、住宅地としての需要が乏しい地域には向きません。

住宅地としての需要がない閑静な場所や、不整形地などの場合は、高齢者・障害者施設などの運営のほうが向いているかもしれません。

農地活用の事例集

最後に、未利用だった土地や耕作放棄地などから、地域住民の交流の場や、体験農園などに生まれ変わった事例をご紹介します。

出典:建設産業・不動産業:空き地等の利活用に関する先進的取組(事例集) - 国土交通省「空き地等の新たな活⽤ 〜空き地等の利活⽤に関する先進的取組〜」(平成31年3⽉ 国⼟交通省⼟地・建設産業局企画課作成)その2、その3

遊休地を住民のための農園へ:今宿コミュニティーガーデン

横浜市が所有する未利用地を、住民の共同耕作地として再生させたのが、神奈川県横浜市旭区今宿にある「今宿コミュニティーガーデン」です。

約600平方メートルの敷地は、斜面地となった地形を考慮し、芝生のイベントゾーン、ハー ブゾーン、フラワーゾーン、学習体験ゾーン、果樹ゾーン、堆肥マスなどに分割されています。

「今宿コミュニティーガーデン友の会」として住民主体で農作物の栽培に取り組むとともに、サマーフェスタや収穫祭などのイベントの企画・運営も行い、地域コミュニティの形成にも一役買っています。

各地の耕作放棄地を体験農園へ:体験農園マイファーム

体験農園マイファームを運営する株式会社マイファームでは、募集を通じて確保した遊休地や耕作放棄地を、「農園利用方式」に則った農業体験農園や、「特定農地貸付法」による貸し農園として有効利用する取り組みを行っています。

農地の所有者に対しては、農地の状況や立地、面積などに応じて、貸し農園、営農希望者とのマッチング、営農継続のサポート、企業とのコラボレーションなど、さまざまな活用方法を提案してくれるのだそうです。

それぞれの体験農園には「自産自消アドバイザー」と呼ばれる知識が豊富なスタッフがおり、畑や野菜づくりの楽しみ方を教えてくれるため、誰でも気軽に野菜づくりを楽しめます。

体験農園マイファームが管理する体験農園は、東京、神奈川、千葉、埼玉の関東をはじめ、愛知、大阪、兵庫、京都、奈良、滋賀、和歌山、福岡の各地にあります。

この記事の監修者

新名範久 【税理士・社会保険労務士】

「新名範久税理士・社会保険労務士事務所」所長。 建設、不動産、理美容、小売、飲食店、塾経営といった幅広い業種の法人や個人の税務・会計業務を行う。社会保険労務士として、法人の社会保険業務も担当。1人でも多くの人に、税金に対する理解を深めてもらいたいと考え、業務を行っている。 税理士、社会保険労務士、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、測量士補、CFP、FP技能検定1級、年金アドバイザー2級、証券外務員1種などの資格を保有。

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