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高齢者のペット飼育で気をつけるポイントと、お金や住まいの話

高橋正美 【ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)】

老後に時間ができたらペットを飼おうと考えるシニアは多いようです。今回は高齢の人がペットを飼う際に注意しておきたいポイントのほか、ペットにかかるお金や住まいのことについて解説します。

目次

仕事や家族のことが落ち着いたら、ペットを飼いたいという高齢の人が増えています。
ただし、安易な気持ちでペットを飼い始めると、大変な思いをするかもしれません。世話をする体力も必要ですし、飼育にかかるお金もかけ続けなければいけないからです。

この記事では、高齢者がペットを飼う前に注意しておきたいポイントを解説します。

高齢者がペットを飼うと得られるメリット

高齢者がペットを飼うメリットにはどういったものがあるのでしょうか。

癒やされて、長生きする励みになる

ペットが伸び伸びと気ままに過ごしている姿は、見ているだけでも癒やされるものです。
撫でたり、抱っこしたりといったスキンシップも、人間に癒やしを与えてくれます。
ペットがいることによって、子供が独立した場合の寂しさを紛らわすことがでますし、日常で抱く不安や寂しさ、ストレスなどを忘れさせてくれる効果もあります。

また、「この子のお世話をするために長生きしよう」「健康体を保って毎日一緒にお散歩しよう」といったように、生きる活力を与えてくれる存在にもなり得ます。

運動習慣が身につき、健康状態の向上が期待できる

孫とともに犬の散歩をする高齢者男性
散歩が必要な犬を飼った場合は、毎日散歩へ連れて行く必要があります。「健康のための運動」は、天候や気分に左右されやすく、一人だとなかなか続かないものです。
しかし、日々の散歩が必要不可欠な愛犬のためであれば、たとえ雨の日だろうと強制的に出かけなければいけません。愛犬と一緒に散歩をすることで、運動も習慣づけられるでしょう。

犬以外のペットでも、お世話をしたり、一緒に遊んだりすることで体を動かすことができますので、運動不足の解消になります。

人との会話や交流が増え、生活にハリが出る

ペットの存在は、人との会話のタネにもなります。会話が減りがちだったパートナーや家族とも、ペットの話題は尽きないことでしょう。

家族以外との会話も増えるはずです。散歩に出かけると、自分と同じようにペットの散歩をしている人や、ジョギング中の人、親子連れ、動物やペットが好きな人など、いろいろな人が話しかけてくるため、他人と話す機会が増えます。

会社通勤がなくなると、人は話す機会がぐっと減るものです。ペットを通じて、人との交流が増えることは、定年退職後の高齢者にとってとても貴重なものです。

ペットとのふれあいは高齢者のストレス緩和に効果あり

アニマルセラピーをご存知でしょうか?

動物介在療法(Animal Assisted Therapy、略してAAT)といった補完医療や、動物介在活動(Animal Assisted Activities、略してAAA)などのレクリエーションを、まとめてアニマルセラピーといい、アニマルセラピーに取り組んでいる介護施設や老人ホームなどが近年増えています
アニマルセラピーの実施は、肉体的な健康状態の向上だけでなく、精神面の改善や向上にも役に立つと考えられているのです。

「認知症高齢者に対するイヌによる動物介在療法の有用」という研究によると、犬によるAATを実施した認知症高齢者は、犬を介在することで周囲への関心が高まり、犬との活動量の増加によって日常生活の自立度が促進され、QOL(生活の質、人生の質)低下の予防や、精神ストレスの緩和、うつ状態改善などの効果が見られたそうです。

当然のことながら、ペットとのふれあいでQOLが向上するのは、認知症の人だけに限りません。
現役世代の人よりも、運動量や社会との交流が減ってしまいがちな高齢者にとって、ペットの飼育は生活上の潤いや恵みを与えてくれる存在となるでしょう。

参考資料
動物介在療法とは(特定非営利活動法人 動物介在教育・療法学会)
認知症高齢者に対するイヌによる動物介在療法の有用性(川崎医療福祉学会誌)

高齢者がペットを飼う前に検討すべきこと4つ

ペットの小型犬
ここでは老後にペットを飼う際の注意点をご紹介します。

世話ができる環境を整える

ペットを飼うには、ペットの世話ができる環境を整えることが必要です。まずは自分の生活に合わせたペットを選んでください。

たとえば、小鳥やハムスターのような小さな生き物であれば、自宅の居住スペースの広さはさほど重要ではありませんが、犬や猫などを飼う場合は、ある程度自由に動き回れるスペースが必要です。

先ほどもお伝えしましたが、犬の場合は天候の悪い日にも、毎日散歩に連れ出す必要があります。毎日散歩へ行く自信がない人は、飼うことを諦めるか、犬の行動に合わせて体力づくりに励むか、散歩の必要がない生き物を選ぶなどを検討しましょう。

散歩を家族に頼むという方法もありますが、その場合は家族にもペットを飼うことに同意してもらう必要があります。自分だけで世話や散歩の面倒を見る自信がなければ、ペットを飼うのは諦めたほうが無難です。

外出中や旅行中にペットをどうするか検討しておく

ペットOKのキャンプ場で愛犬と一緒に焚き火を楽しむ老夫婦
外出時や旅行など、自分が家を不在にするときにペットをどうするかは、飼い始める前に必ず検討しておきましょう。
ペットを飼うのに躊躇している人の多くは、旅行中のことを気にして飼わないという決断をしているそうです。

自分が不在でも、ペットのためにエアコンや冷暖房器具をつけっぱなしにしておくと、月間でどれくらいの電気代になるのかを試算し、生活費に影響がないかを調べておきましょう。
不在時の餌やりや水やりなどは、自動給水装置や自動給餌器などの機器を活用してください。

また、旅行に出る場合は、下記のような選択肢の中から適切なものを選んでください。

<旅行時に飼い主が検討すべきこと>

  • ペットOKの旅館・ホテル・ツアーを探す
  • ドッグラン付き、あるいはペット同伴OKのキャンプ場・コテージなどを探す
  • 近隣のペットホテルや宿泊OKの動物病院を探す
  • ペットシッターを探す


自分にもしものことがあったときにペットを世話してくれる人・団体を見つけておく

犬や猫などのペットと一緒に暮らせる老人ホーム
ペットの飼い主には、ペットが命を終える最後まで適切に飼育をする「終生飼養」の責任がありますので、入院で家を長期間不在にしたり、ペットを残して自分が先立ってしまったり、といった最悪の事態は極力避けるべきです。
そのような万が一の場合に備え、同居や近隣に住む家族に相談をしておくか、ペットシッターやペットホテル、動物病院などを見つけておくか、ペットと入居できる老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などを探しておくといいでしょう。

飼い主の死後にペットを引き取る活動をしているNPO法人などの団体もありますので、元気なうちにコンタクトしてみるのもおすすめです。もしものことが起こる前に、信頼できる団体があるか、調べておいてください。

また、自分に万が一のことがあった場合に備え、ペット用のエンディングノートを用意しておくと安心です。
ペットの年齢やワクチンの接種日、体重などのほかに、好きなフードや好きな散歩コース、持病・投薬・手術の有無、引き取る人へのメッセージなどを書き記しておきます。

ダイソーが販売している5種類のエンディングノート「もしもノート」の中には「うちの子ノート」というものがあります。うちの子ノートは、ペットの情報をまとめるのにぴったりなノートですので、活用してみてはいかがでしょうか。

ペットのエンディングノートや「もしもノート」の詳細については、下記の記事でも解説していますので、参考にしてください。
自分の安心につながる「エンディングノート」の作り方・書き方【FP監修】
おひとりさま終活でやるべき13のこと!身寄りなしでも安心な最後を

参考資料


飼育にかかるお金を現役引退後にも用意できるか計算しておく

ペットの飼育にかかるお金は膨大です。毎日のエサ代やおやつ代といった食費のほかに、日々を過ごす小屋やケージ、移動用のキャリーケースといった住居費、クリート、首輪、リード、服などの衣服費、そしておもちゃなどにもお金がかかります。

予防接種や病気で病院に連れて行くこともありますし、犬や猫であれば去勢や避妊手術が必要になるかもしれません。

病院で治療を受けると莫大な治療費がかかりますので、飼い主になったらペット用の保険に入っておくことをおすすめします。人間のように公的な保険は適用されませんが、治療の出費を抑えることができます。

ペットの飼育には、想像している以上にお金がかかるものです。飼育のお金が用意できるかどうかも、注意したいポイントの一つです。

犬の飼育にかかる初期費用と初期の手続き

実際にペットを飼うのにかかるお金はどのくらいになるのでしょうか。
犬の場合の初期費用と手続きについて確認していきましょう。

犬の飼育開始にかかる必須経費は約1万3,000円

初期に必ず払わなければいけない必要経費は下記のとおりです。

  • 市区町村への登録費用:約3,000円
  • 狂犬病の予防接種代:約3,500円
  • 混合ワクチン接種代:(5~6種混合で)約6,000円
  • マイクロチップ登録申請料:オンライン申請は300円、紙による申請は1,000円


合計額は、約1万2,800〜1万3,500円となります。

犬の衣食住にかかる初期費用の合計は約6万円

犬の飼育にかかる初期費用の合計金額

初期の登録やワクチン接種など、必須の費用である1万2,800〜1万3,500円のほかに、飼育環境を整えるため、ペット用品一式として、ケージ、トイレ、トイレ用品、首輪、リード、洋服、おもちゃなどの購入費用もかかります。

ペットの保険を取り扱っているアニコム損害保険株式会社によるアンケート調査(※1)によると、犬の飼育にかかる日用品一式を揃えるのには、3万5,205円ほど必要だそうです(※2)。
さらにフード・おやつ代とサプリメント代としては、年間で平均8万1,294円ですので、1か月平均ですと6,774円かかるでしょう。

保険料は、犬種や年齢、保証内容によってさまざまですが、先ほど触れたアニコム損害保険のアンケートによれば、年間で平均4万6,187円となっていますので、1か月平均ですと3,848円となります。

以上を踏まえますと、ペット自体の購入費などを除いた初期費用には、5万8,627円から5万9,327円ほどがかかると考えられます。

犬種や年齢によって、もっと抑えられるか、あるいはもっとかかる場合もありますので、ご注意ください。

※1:【2021最新版】ペットにかける年間支出調査 |ニュースリリース| ペット保険のご契約は【アニコム損保】
※2:2021年の1年間にかけた年間支出平均のうち、日用品、洋服、首輪・リード、防災用品を合計した平均金額

犬を飼うのにかかる初期の手続き

犬を飼う際には、犬が家に来た日から30日以内、生後90日以内の子犬の場合は生後90日を経過してから30日以内に、居住する市区町村へ登録し、犬の鑑札を交付してもらうことが、動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)で定められています。
犬の所有者を明確にすると、狂犬病などが発生した場合、その地域で迅速に対応することが可能になるからです。
また、年一回の狂犬病予防注射を受けさせ、犬の鑑札と注射済票を飼い犬に装着することも義務付けられています。

なお、引っ越しをする場合は、30日以内に引っ越し先の市区町村役場へ行き、登録変更手続きをする必要があります。人間の引っ越しのように、引っ越し前の市区町村に「転出届」を提出する必要はありません。
亡くなってしまった場合は、各役場の窓口で登録抹消(死亡)の手続きを行ってください。

さらに、2019(令和元)年6月の法改正では、業者やブリーダーなどが販売する犬・猫にマイクロチップ装着をして所有者情報の登録が義務づけられるようになりました。そのため飼い主は、最初にマイクロチップ登録申請料を支払う必要があります。

参考資料
犬の鑑札、注射済票について|厚生労働省

犬を迎える際は、友人知人のつながりやシェルターの活用がおすすめ

ペット自体の購入については、ペットショップやブリーダーなどから購入せずに、友人や知り合いから貰い受ける形にすれば、高額な費用がかかることはありません。
最近では、捨て犬や捨て猫などの保護施設(シェルター)から引き取って飼い始める飼い主が増えているそうです。
シェルターからの引き取りは、動物の保護活動をサポートするという社会的な意義もありますので、ぜひ検討してみてください。

犬の生涯にかかる平均総額は約420万円から500万円強

一般社団法人ペットフード協会の調査によると、一般世帯で飼育されている犬の平均寿命は14.65歳であることがわかっています。

<犬の平均寿命>

  • 犬全体(サイズ不明含む):14.65歳
  • 超小型:15.30歳
  • 小型:14.05歳
  • 中・大型:13.52歳

(出典:一般社団法人ペットフード協会「令和3年(2021年)全国犬猫飼育実態調査」)

先ほどの初期費用の算出で参考にしたアニコム損害保険の資料によると、犬の飼育にかかる1年間の平均金額は34万5,572円です。
この金額に平均寿命である14.65年をかけると、犬の生涯にかかる飼育費用の総額は506万2,629円となることがわかります。

とはいえ飼育代の節約は可能です。
日用品や洋服などを、友人知人のお下がりやお手頃な古着・中古品などにすれば、日用品にかかる平均年額1万4,364円(※1)×平均寿命14.65年=21万432円と、洋服にかかる平均年額1万3,096円(※2)×14.65年=19万1,856円の、合計40万2,288円が浮く計算になります。

また、散歩や運動を欠かさずに行い、ワクチン摂取やサプリメントの購入、病気や熱中症対策のためのシャンプー・トリミングなどにしっかりとお金をかけて、なるべく動物病院の世話にならないように心がけることも、治療費の大幅な節約につながります。
健康維持のための支出を惜しまず、生涯にかかる治療費を半分に抑えることができれば、ケガや病気の治療費平均年額5万9,387円(※3)×14.65年÷2=43万5,009円が浮く計算です。

このように、「お下がりや中古品を使う」「健康につながる支出は抑えず、散歩や運動を欠かさない」などを実行すれば、飼育総額を422万5,332円(506万2,629円−40万2,288円−43万5,009円に抑えられる可能性があります

※1、2、3:アニコム損害保険アンケート調査から、2021年の1年間にかけた年間支出平均のうち、日用品、洋服、治療費の平均金額を参考

まとめ:自分自身の健康維持も飼い主の義務です

ペットの小型犬
高齢者がペットを飼うと、「癒やされる」「長生きの励みになる」「運動になる」「健康になる」「社会との交流が増える」といった多数のメリットがある一方で、注意すべきこともたくさんあります。
「終生飼養」を念頭に置き、世話ができる住環境か、自分に万が一のことがあった場合にペットを託せる相手がいるか、といったことも事前にしっかりと考えておかなければいけません。
ペットがいる場合の老後の住まいについては、早くから検討しておく必要があるでしょう。

さらに、ペットの飼育には食事代だけでなく、たくさんのお金がかかります。老後に膨大な飼育費が捻出できるかも重要です。
健康に過ごすためには、定期的なワクチン摂取のほか、毎日の散歩、トリミング、適切な食事方法など、さまざまな配慮も必要になります。

そしてペットの健康だけでなく、ご自身の健康と長寿を維持していくのも、飼い主としての当然の義務です。
快適なペットとの生活を過ごすためにも、ペットとともに自分自身の健康維持も心がけてください。

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この記事の監修者

高橋正美 【ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)】

日本FP協会所属。日本FP協会2019年「くらしとお金の相談室」相談員。某保険会社のお客様窓口で、保全業務のほか、資産活用、相続対策の相談などを16年間行い独立。相続開始後の手続き支援なども行う。 健康管理士として、お客様のお金に関する相談以外に、健康に関するアドバイスも実施。

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