任意後見制度を徹底解説!後見人に頼める内容・手続き方法・費用など
任意後見制度を徹底解説! 判断能力低下後も自分らしい生活ができる
任意後見制度は判断能力があるうちに自分の後見人を選んでおく制度。自分の意思を後見人に伝えられることがメリットです。この記事では任意後見制度の詳細や手続き、費用などを解説しています。
- 目次
- 任意後見制度とは
- 任意後見制度とは成年後見制度の1つ
- 任意後見人に依頼できる主な内容は財産管理と身上保護
- 家族や親族以外でも任意後見人になれる
- 任意後見監督人の役割は任意後見人を監督すること
- 任意後見制度にかかる主な費用
- 任意後見制度と法定後見制度の違い
- 任意後見制度のメリット・デメリット
- 任意後見制度の契約から後見開始までの流れ
- 任意後見人候補を決定する
- 任意後見の契約内容を決定する
- 任意後見契約の公正証書の作成を行う
- 【判断能力低下後】家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立てを行う
- 任意後見の開始
- 任意後見制度に関するよくある質問
- 任意後見契約は解約したり内容変更したりできる?
- 任意後見人や任意後見監督人への報酬は必ず必要?
- 任意後見制度はどんな人におすすめ?
- 任意後見制度と同時に検討した方がいい契約はある?
- まとめ・任意後見制度で自分の意思を伝えておこう
任意後見制度とは
まずは、任意後見制度がどういう内容なのか改めて確認していきましょう。
※1:法務省|成年後見制度
※2:厚生労働省|任意後見制度とは
任意後見制度とは成年後見制度の1つ
任意後見制度は、成年後見制度のうちの1つです。成年後見制度とは、認知症などにより判断能力の低下した人がさまざまな手続きを行う際に、支援する制度のこと。
成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」がありますが、自分の判断能力があるうちに後見人と依頼内容を決めて契約しておく制度が、任意後見制度です。
任意後見契約を締結した後に本人の判断能力が低下した場合には、家庭裁判所が任意後見監督人を専任し、監督人の監督を受けながら任意後見人があらかじめ契約した内容を行ってくれます。
任意後見制度は、自分の意思で後見人になる人や後見人にお願いしたい内容を決められるため、認知症などで判断能力が低下した後も、自分らしい生活が送れることが大きなメリットです。
では、任意後見人にはどのようなことを依頼できるのでしょうか?
任意後見人に依頼できる主な内容は財産管理と身上保護
任意後見人に依頼できる主な内容は2つ。財産管理と身上保護です。
■任意後見人に依頼できる主な内容
財産管理 | 身上保護 |
---|---|
|
|
財産管理は、本人の代わりに財産を管理することです。生活資金の入出金から不動産の管理まで、幅広く依頼できます。
身上保護は、医療・介護の手続きや納税手続きなどを管理することです。定期的な自宅訪問から介護福祉施設への手続きまで、幅広く依頼できます。
このような重要な役割がある任意後見人には、どのような人がなれるのでしょうか?
家族や親族以外でも任意後見人になれる
任意後見人には、「ふさわしくない」とされる人以外の成人であれば、誰でも指定できます。家族や親族はもちろん、血縁関係のない第三者でも任意後見人に指定可能です。
任意後見人にふさわしくない人
- 破産した人
- 行方不明の人
- 家庭裁判所で法定代理人・保佐人・補助人を解任された人
- 本人に対して訴訟をおこした人(該当者の配偶者・直径血族)
- その他、任意後見人の任務に適さない事由がある人
任意後見人が身内にいない場合は専門家や社会福祉法人などに依頼できる
任意後見制度を利用したいけれど、身近に後見人になってくれる人がみつからない場合もあるでしょう。
そんな場合は、まず自治体の福祉窓口に相談してみましょう。自治体によりますが、任意後見を引き受けてくれる法人や社会福祉士などの専門家を紹介してくれる場合があります。
高齢化が進む日本では、配偶者や親族も自分と同じように高齢のため、適切な後見人が見つからない人が大勢います。そんな人をサポートするために、相談窓口を設置している自治体は多いため、迷った場合はまず自治体に相談してみるのも1つの方法です。
任意後見監督人の役割は任意後見人を監督すること
任意後見監督人という言葉を初めて聞いた人もいるでしょう。任意後見監督人とは、任意後見人が契約に沿った役割を果たしているか監督する人のことです。
任意後見人は、本人に代わって財産管理や身上保護を行います。判断能力が低下した人にとって便利な制度である一方、後見人が悪意を持ってしまうと、本人の財産や生活が壊れてしまう危険性があるのです。
このリスクを防ぐために存在するのが任意後見監督人です。
任意後見監督人の役割
- 任意後見人が契約に沿った役割を果たしているか監督する
- 適切な財産管理を行っているか監督する
- 後見監督人の同意が求められている行為について調査する
- 確認した内容を家庭裁判所に報告する
- 任意後見人が不適任であると判断した場合に解任の申し立てをする
- 任意後見人が役割を果たせない状態になった場合に代理で役割を果たす など
これらの重要な役割があることから、任意後見監督人は弁護士・司法書士・社会福祉士などの第三者の専門家が担当することが一般的で、任意後見人本人や親族は担当できません。
任意後見制度にかかる主な費用
任意後見制度にかかる費用は、主に契約時にかかる費用と任意後見開始後にかかる費用に分かれています。
任意後見契約にかかる費用
- 公正証書の基本手数料:11,000円
- 登記嘱託手数料:14,000円
- 法務局への印紙代:2,600円 など
任意後見契約を締結する際は公正証書を作成する必要があるため、上記の費用が必要になります。
任意後見開始後にかかる費用
- 任意後見人への報酬
- 任意後見監督人への報酬
- 任意後見人・任意後見監督人の事務費 など
任意後見が開始されてからは後見人・後見監督人への報酬と事務費が必要になります。ただし、任意後見人への報酬は必須ではなく、契約時に双方で話し合って決定します。親族が後見人になる場合は、無報酬のケースもめずらしくありません。
報酬の相場は以下の通りです。
報酬の相場
- 任意後見人:月額0.5〜3万円程度
- 任意後見監督人:月額3〜6万円程度
なお、任意後見監督人の報酬は、本人の財産状況などを考慮して家庭裁判所が決定します。
任意後見制度と法定後見制度の違い
先ほど、成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」があるとお伝えしました。ここで、両者の違いを確認しておきましょう。
■任意後見制度と法定後見制度の違い
任意後見制度 | 法定後見制度 | |
---|---|---|
制度の概要 | 本人の判断能力があるうちに | 本人の判断能力が不十分に |
申し立て | 本人の判断能力が不十分に | 家庭裁判所に |
申し立て | 本人・配偶者・ | 本人・配偶者・ |
後見人の | 任意後見契約で定めた | 一定の範囲内で |
後見監督人の | 必要 | 家庭裁判所が |
任意後見制度は判断能力が低下する前に後見人を選べる、法定後見制度は判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選ぶ、ということは覚えておきましょう。
任意後見制度のメリット・デメリット
次に、任意後見制度のメリットデメリットを確認してみましょう。
メリット | デメリット |
---|---|
・自分で後見人を選べる | ・取消権限がない |
大きなメリットは、判断能力があるうちに、自分で後見人や後見人に依頼したい内容を決められることです。
法定後見制度では、自分の意思とは関係なく家庭裁判所が後見人を選びます。
すると、本人の生活スタイルや性格を知らない人が後見人になる可能性が高いため、本人の希望しない生活になってしまうリスクが考えらえます。ストレスから認知症がさらに進行してしまう可能性もあるでしょう。
しかし、任意後見制度なら自分の意思を事前に伝えることが可能なため、万一のときも安心できます。さらに、第三者である監督人が存在するため、後見人に対する信用面でも安心できます。
デメリットは、取消権限がないことです。例えば、本人が株を大量購入した場合でも、後見人には購入を取消しする権限はありません。財産を保護する観点から考えると、デメリットになるでしょう。
また、任意後見制度は本人が死亡した段階で契約は終了します。つまり、相続や葬儀の管理などは任せられません。生前だけでなく死後の手続きも依頼したい場合は、死後事務契約も結んでおく必要があります。
その他、費用がかかることや申し立てから後見開始までに時間がかかることも懸念要素です。
任意後見制度の契約から後見開始までの流れ
では、任意後見制度はどのように開始されるのでしょうか?ここでは、契約から後見開始までの流れをご紹介します。
契約から後見開始までの流れ
- 任意後見人候補を決定する
- 任意後見の契約内容を決定する
- 任意後見契約の締結と公正証書の作成を行う
- 家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立てを行う
- 任意後見の開始
段階ごとの詳細を確認してみましょう。
任意後見人候補を決定する
まずは、任意後見人の候補を決めます。
任意後見人は、ふさわしくないとされる人以外であれば誰でもなれます。ただし、財産の管理をする役割があるため、信頼できる人を選ぶことが大前提です。
親族や友人に適任者がいない場合は、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門家に依頼することも検討しましょう。
任意後見の契約内容を決定する
任意後見人が決まったら、後見人に依頼する内容を決めます。内容は法律に違反しない範囲内であれば、本人と後見人、双方の合意により決められます。
具体的には以下の内容を話し合いましょう。
契約内容で相談すべきこと
- 生活・医療・介護について
- 日々のお金の管理について
- 不動産などの財産について
- 任意後見人の権限について
- 任意後見人への報酬について
例えば、「認知症になった場合は〇〇施設に入居したい」「治療する場合は〇〇病院で診てもらいたい」「介護が必要になった場合は不動産を処分して介護施設に入居したい」など、判断能力があるうちに、しっかりと自分の将来のことを決めておくことが重要です。
任意後見契約の公正証書の作成を行う
契約内容が決まったら、任意後見契約の公正証書を作成します。公正証書とは、個人からの依頼により公証人が作成する公文書のこと。強い執行力があることが特徴です。
公正証書を作成するためには、公証役場へ出向き、公証人に作成してもらう必要があります。任意後見契約が記された公正証書を公証人が法務局に登記依頼をし、2〜3週間で登記事項証明書が作成され、契約手続きは完了です。
【判断能力低下後】家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立てを行う
契約後、本人の判断能力が低下した場合には、本人・後見人・四親等以内の親族が家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立てを行います。
任意後見の開始
申し立て後、任意後見監督人が選任されると、任意後見人に郵送で通知が届きます。この段階から任意後見が開始され、後見人は本人の支援や保護を行います。
任意後見制度に関するよくある質問
最後に、任意後見制度に関するよくある質問をご紹介します。ぜひ、参考にしてください。
任意後見契約は解約したり内容変更したりできる?
任意後見契約は、解約も内容変更も可能です。
任意後見監督人の選任前の解約は、公証役場で公証人立会いのもと書面で行います。任意後見監督人の選任後の解約は、家庭裁判所の許可が必要です。
なお、後見人の代理権に関する内容の変更に関しては、新たに契約を締結する必要があるので注意してください。
任意後見人や任意後見監督人への報酬は必ず必要?
任意後見人への報酬は必須ではありません。本人と後見人で相談の上、無報酬で合意すれば報酬を支払う必要はありません。
任意後見監督人への報酬は本人の財産状況を考慮し家庭裁判所が決めるため、定められた報酬を支払う必要があります。
任意後見制度はどんな人におすすめ?
任意後見制度は、本人の判断能力が不十分になった場合に効力を発揮する制度。認知症や障害は誰にでも起こり得る可能性があるため、基本的にはどんな人にもおすすめの制度です。
特に以下に該当する場合は、制度の利用を検討することをおすすめします。
任意後見制度がおすすめの人
- 血縁関係のない第三者に後見人になってほしい
- 障害のある子どもがいる
2つ目の障害のある子どもがいる場合、早めに任意後見制度を締結することをおすすめします。
なぜなら、障害のある子どもが18歳になると、それまで親が有していた「子どもの財産を管理する権利」が消滅するためです。親が管理する権利を失うと、子どもが所有している財産は凍結されてしまうのです。
その結果、財産を使うためには自動的に法定後見制度が適用されることになり、子どもと面識のない第三者が後見人になってしまいます。
しかし、親を後見人に指定した任意後見契約を結んでおけば、子どもが成人した後も親が子どもの財産を管理できます。
「障害のある子どもが不自由ないように」と子どもに財産を残している人は、特に早めに対策を行いましょう。
任意後見制度と同時に検討した方がいい契約はある?
任意後見制度の不足部分を補える制度がいくつかあるので、ご紹介します。
見守り契約
1つ目は、見守り契約です。見守り契約とは、任意後見が開始するまでの期間、後見人になる人が定期的に電話や訪問を行い、本人の健康状態の確認を行う契約のことです。
一般的には、見守り契約は後見人になる人に依頼します。見守り契約の料金相場は以下の通りです。
■見守り契約の料金相場
確認方法 | 月額料金 |
---|---|
電話 | 5,000〜7,000円 |
電話・訪問 | 1〜1.5万円 |
電話・訪問 | 1.5〜2万円 |
駆けつけ | 5,000円 |
任意後見制度は本人の判断能力が低下してから効力を発揮しますが、判断能力が低下しているかどうかを本人が客観的に判断することは難しいでしょう。
しかし、見守り契約をしていれば、見守り人が本人の変化に気付けるため、後見開始のタイミングを逃さずに済みます。
財産管理等委任契約
2つ目は、財産管理等委任契約です。財産管理等委任契約とは、本人に代わり第三者が財産管理を行う契約のことです。
一見、任意後見制度と同じように感じるかもしれませんが、任意後見制度は本人の判断能力の低下が適用要件である一方、財産管理等委任契約は本人の判断能力の低下を適用要件としていません。
そのため、判断能力があるうちに財産管理を誰かに委任したい場合におすすめの制度になります。
ただし、任意後見契約とは異なり、公正証書が作成されないことや任意後見監督人のようなチェックをする者がいないことなどから、社会的信用が十分ではないというデメリットもあります。
財産管理等委任契約を検討する際は、本当に財産の管理を依頼しても問題ないか十分に検討することが重要です。
死後事務委任契約
3つ目は、死後事務委任契約です。死後事務委任契約とは、死後に発生するさまざまな手続きを第三者に依頼しておく制度のことです。
死後事務委任契約で可能なこと
- 葬儀や火葬の手続き
- 納骨や埋葬の手続き
- 医療機関や介護施設への精算・退去手続き・片付け
- 行政手続き
- 納税手続き
- 生命保険の手続き
- 自宅の片付け
- 車の手続き
- 携帯電話の解約手続き など
死後事務委任契約は、司法書士などの専門家に依頼することが一般的です。任意後見契約と合わせて契約することで、生前だけでなく死後の手続きの心配をしなくて済む安心感が生まれます。
まとめ・任意後見制度で自分の意思を伝えておこう
任意後見制度では、自分の意思で後見人になる人や後見人にお願いしたい内容を決められるため、認知症などで判断能力が低下した後も自分らしい生活が送れることが大きなメリットです。
また、第三者である監督人が存在するため、後見人に対する信用面でも安心できます。
ただし、本人の判断能力があるうちに契約しなくてはなりません。認知症や障害などにより判断能力が低下した後は、自分の意思で後見人や依頼内容を決めることはできないのです。
実際に任意後見が開始されるのは、本人の判断能力が不十分になった後。契約を結んだ時点では任意後見が開始される訳ではないため、早い段階で準備しておくに越したことはありません。
この機会に、将来のことをご家族で相談してみてはいかがでしょうか?
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参考資料
この記事の監修者
岡地 綾子 【ファイナンシャル・プランナー】
2級ファイナンシャル・プランニング技能士。 年金制度や税金制度など、誰もが抱える身近な問題の相談業務を行う。 得意分野は、生命保険・老後の生活設計・教育資金の準備・家計の見直し・相続など。