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再雇用で支給される「高年齢雇用継続基本給付金」とは?定年退職後の収入減を補う給付金を解説

谷口芳子 【社会保険労務士】

再雇用で支給される給付金とは?定年退職後、再雇用で給料が減った分は雇用保険の給付金で補えるかもしれません。誰が対象?給付金の金額は?徹底解説!

目次

2013(平成25)年に高年齢者雇用安定法が改正されて以降、これまで一般的だった60歳で定年退職してリタイアするという人は減り、60歳以降も働き続ける人が増えています。

60歳以降も希望すれば働き続けられる環境が整ってきた一方で、定年後の再雇用時には正社員から契約社員などに切り替わることが多く、一般的には給与が大幅に減ってしまうというのが現状です。そこで、減ってしまった収入の一部を補ってくれる「高年齢雇用継続基本給付金」という雇用保険の制度があります。
 
今回は、この「高年齢雇用継続基本給付金」について解説します。


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再雇用で給付金の対象となる人は?

高年齢雇用継続基本給付金は、60歳以降、月収が60歳前に比べて75%未満に下がってしまった場合に対象となり、65歳になるまでの最大5年間、支給を受けることができます。
再雇用でアルバイトやパートに切り替わり勤務日数が減った場合や、失業手当を受給せずに1年以内に転職した場合も対象です(引き続き雇用保険に加入していることが条件)。

以下3つの支給要件を満たしていることが「高年齢雇用継続基本給付金」を受給するための条件です。


◯支給要件

  • 60歳以上65歳未満であること。
  • 雇用保険に5年以上加入していること。
  • 60歳前に比べて月収が75%未満に下がってしまったこと。


給付金はどれくらい?

高年齢雇用継続基本給付金は、どのくらいの金額なのでしょうか。
月収が下がった割合が大きいほど支給される金額は多くなり、1か月あたり「減額後の賃金×最大15%」を65歳になるまでの最大5年間受け取ることができます。


60歳で定年退職後にどれくらい支給されるのか?

実際に「勤続15年、60歳の男性Aさんが定年退職し、再雇用された場合」を想定して計算してみましょう。

  • 月給30万円→月給22万円になった場合

    賃金の低下率=73.3%

 別表1より支給率は1.79%で支給額は

  22万円 ×1.79% =3,938 円 (月額)

  3,938円×12カ月=4万7,256円(年額)

 →月々の収入(月給+給付金)は、約22万4,000円になります。

  • 月給30万円→月給18万円になった場合

   賃金の低下率=60%

   低下率が60%以下の場合支給率は15.0%で、支給額は

  18万円 ×15.0%=2万7,000円 (月額)

  2.7万 ×12カ月=32万4,000円(年額)

 →月々の収入(月給+給付金)は、約20万7,000円になります。

支給率早見表

表1:支給率早見表

出典:厚生労働省ホームページ「Q&A〜高年齢雇用継続給付」 

高年齢雇用継続基本給付金の注意ポイント

高年齢雇用継続基本給付金を受給する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。

収入の額によっては不支給もある

給付金額には上限・下限があります。

  • 上限(支給限度額):364,595円
  • 下限(最低限度額):2,125円*毎年8月1日に更新されます。(上記情報は令和5年7月までの情報です)

 
受給期間中に収入が上限額を超えた場合、その月の支給はありません。「賃金+給付金」が上限額を超えた場合には、超えた分だけ給付金が減額されます。また、給付金の金額が下限額以下になった場合にも支給されないので注意が必要です。

要注意!年金との併給調整もある

働きながら年金を受給している人は、高年齢雇用継続基本給付金の一部が支給停止されます。
もともと65歳未満の人で収入と年金の合計額が47万円を超えるときは、超えた額の2分の1が支給停止される決まりで、この収入にはボーナスを12で割った額も含まれます。

高年齢雇用継続基本給付金を受給すると、さらに年金の一部が支給停止されます。
停止される金額は、最高で標準報酬月額の6%相当額です。

標準報酬月額とは、毎月の給料を一定の幅で等級に分けたもので、社会保険料の金額を決定するもとになっているものです。
この併給調整については、年金事務所やハローワークで確認することができます。

雇用継続給付金は縮小する方向

再雇用で支給される給付金は、今後は段階的に縮小・廃止される予定です。
高年齢雇用継続基本給付金も、2025(令和7)年4月に支給率が最大15%から10%に引き下げられることが決定しています(2025年3月31日までに60歳になっていれば現行通りの15%)。

 

その背景には、60歳以上の働く人に関係する法律や制度が大きく変わってきたことがあります。大きな変化の一つとしては、2025年4月からすべての企業で定年年齢を65歳以上にすることが義務化されることです。

 

65歳まで働ける企業を増やすために誕生した高年齢雇用継続基本給付金がその役割を終え、今後は65歳以上も働く意欲がある限り長く働けるよう整備が進められています。

 

また、再雇用時の給料大幅ダウンは社会問題として注目されています。今後は、減った分を給付金で補うのではなく、企業側に定年前と再雇用時の給料格差を見直すことが求められています。

給付金の申請はどうする?

高年齢雇用継続基本給付金は、月給が下がってしまった本人が申請する必要はありません。原則、手続きは所属する会社が行います。自分が対象になるかもしれないという場合はまず会社の人事労務の担当者に確認してみましょう。
 
ただし、会社の担当者がそういった制度を知らず、申請の機会を逃してしまうこともあるので、迷った場合には担当者からハローワークに確認してもらうか、自分が対象かどうかを直接ハローワークに相談してみる必要があります。


定年退職後、違う会社に移った場合はどうしたらいい?

定年後、再雇用で同じ会社に残るのではなく、転職して違うところで働くという人もいるのではないでしょうか。
その場合、同じく雇用保険の制度で「高年齢再就職給付金」というものがあります。

高年齢再就職給付金も、高年齢雇用継続給付金と同様に収入が減ってしまった場合に助けてくれるもので、対象は60歳以上65歳未満で、再就職した人となります。
高年齢雇用継続給付金と同じく、いくつか要件があるので、転職した自分が対象かどうか一度確認してみてください。


まとめ

今回は、再雇用で給与が減ってしまった場合に助けてくれる「高年齢雇用継続基本給付金」について解説しました。

自分が給付金の支給対象かどうか、まずは一度確認してみるといいでしょう。


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この記事の監修者

谷口芳子 【社会保険労務士】

シニア社労士事務所所長。NPO法人や税理士法人を経て現職。社会保険・雇用保険の各種届出、年末調整、労務相談、公正証書作成などの業務を担当。行政書士資格保有。

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